おいちゃん

声優夫婦の甘くない生活のおいちゃんのレビュー・感想・評価

声優夫婦の甘くない生活(2019年製作の映画)
3.9
日本では馴染みある吹替声優という仕事。
声優夫婦が主役で90年代イスラエルを舞台にしたというだけでも興味深いが、当時のソ連でも検閲をクリアすれば外国映画が吹き替えで普通に見られたというエピソードもあって面白かった。

ミサイルや毒ガスの脅威が日常のイスラエル、ソ連から来たユダヤ系移民の夫婦問題や様々な形の移民たちの心情、どこまで行ってもヘビーで切実な内容を軽快なタッチで描きコミカルさと両立させている。
夫婦の思い出映画トークや、ダイハード2を返してロボコップを借りるレンタル屋の客など監督の溢れる映画愛が伝わってくるのも良い。

色んな声色の演技ができるのに自分を出した芝居が出来ない夫や、別人を演じてるうちに自分がわからなくなってくる妻の描写。
「吹き替えこそ映画の入り口」というセリフもあるが、映画における吹き替えの何たるかを、吹替声優としての矜持をこれでもかと語ってくれる映画もなかなか珍しいのでは。
声優文化が特に発達している日本で生まれ育ったからこそ面白く感じるのかもしれない。

変化に適応するのは難しいが、本当に大切なものが何か、そのために何ができるかを考えれば自ずと答えは見えてくるという人生の普遍的な教訓をサラッと自然に見せられるのが実は凄い。
そして、その変化を引き起こすのがミサイル攻撃という、フセイン時代のイスラエルだからこそ出来る展開を持ってくる豪胆さも持ち合わせてくる。
まだ40ほどの監督とは思えない熟練っぷり。

音楽のセンスもよく、全編において監督のワザマエを感じるいい映画だった。

立川シネマシティで見たが、予告でアキ・カウリスマキの新作「世界で一番しあわせな食堂」の予告を流してるのも良。
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