木蘭

声優夫婦の甘くない生活の木蘭のレビュー・感想・評価

声優夫婦の甘くない生活(2019年製作の映画)
4.0
 ソ連崩壊直前、湾岸戦争のさなかにイスラエルに移民してきた熟年声優夫婦の物語。
 新天地に降り立ったものの、築いたキャリアを失った悲しみや不安、ヘブライ語の壁に突き当たる苦しみ、社会に居場所を見つけられない旧ソ連移民の寂しさを、ほろ苦いコメディとして描いていく。

 画面の色彩といい、主人公の2人も決して美男美女では無いのも相まって、総てが錆び付きすえた臭いすら感じさせるのだが、それがやがて豊かな色彩に見えてくる展開が素敵だ。

 将来の展望どころか明日の生活もままならず、底辺の仕事に甘んじ、夫婦関係もギクシャクし、老齢の悲しみも感じさせ、しまいにはスカッドミサイルまで飛んでくるのに、ビターだけどエグ味を感じさせずに観られて、時にはホロリとさせてくれる。
 それは出てくるキャラクターに悪人がいないからなんだな(犯罪者は出てきても)。出てくる人々の多くが、主人公たちに敬意を忘れないのが、とても良い。困難な時でも希望が持てるのは、そういう事なんだよな・・・と教えてくれる。もちろん夫婦の間にも。
木蘭

木蘭