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トゥルーノースの2049のレビュー・感想・評価

トゥルーノース(2020年製作の映画)
4.5
 清水ハン栄治監督が様々な苦難を乗り越え生み出した傑作アニメーション映画。

 北朝鮮で暮らすヨハンとミヒの兄妹は父親が政治犯の疑いで逮捕されたことで、母親と共に強制収容所に入れられてしまう。

 北朝鮮という国の全貌はあまり知られていないが、親から子へ世襲される独裁体制が今なお継続し、極端な個人崇拝により成り立つ世界的に見ても異常な国の一つだ。独裁による恐怖政治は国民をがんじがらめに縛り付け自由などない。
 エコノミスト誌傘下の研究所エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる民主主義指数は世界最下位(2019年度)、国境なき記者団による世界報道自由度ランキングも世界最下位を記録している(2020年度)
 衰退の一途を辿っているとは言え、まだなんとか先進国である日本に住む我々からは想像も出来ない世界だ。

 本作は実際に強制収容所に収容されていた脱北者のインタビューを元にして脚本を書いているとのこと。つまり強制収容所の真実をこの映画は描いていることになる。

 強制収容所の実態は想像を絶するもので、毎日過酷な労働に従事させられ配給される食料は非常に少なく、兵士達からは理不尽に罵られ殴られ、女性はレイプされる。住居には風呂もなく、小さな炊事場と棚があるだけ。床もなくダンボールを敷いて寝るしかない。病院もなく薬もないので致死的な病を患ったり重傷を負うと死を待つだけ。まさにこの世の地獄だ。

 そんな環境の中で生活するとあっという間に理性や倫理、道徳は崩壊する。収容者どうしで欺き合い、奪い合い、殺し合う。そうしないと生きていけない、家族を守れない。

 ヨハンは自分に厳しかった父から「母さんと妹を守れ」と言われ続け育ったこと、それを守ることこそが父に愛される条件だと言わんばかりに他人を蹴落とし収容所の強者となっていく。自分をこんな風にした父に対する巨大な怒りを握りしめて。

 そんな中、ミヒと母は他人への思いやりや優しさを決して忘れない。地獄の中にあっても優しく微笑み常に弱い者を気遣う。たとえ自分を犠牲にしても。

 現代の資本主義が生み出したものは勝者と敗者、格差、怒りや憎しみに満ち満ちた不寛容な社会だ。他人を思いやる余裕はなく些細な過ちを見つければ喜び勇んで欺瞞の正義の剣を振り翳す人々で溢れている。
そんな現代人に本作は力強い気づきを与えてくれる。
 清水ハン栄治監督は本作を10年の歳月をかけて自費で製作したという。その想いが、情熱が一人でも多くの人に届いて欲しいと切に願う。この映画こそが、これこそが映画の力だ。
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