エミさん

マリアの旅のエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

マリアの旅(2020年製作の映画)
2.6

このレビューはネタバレを含みます

TIFF2020にて鑑賞。スペイン制作。
冒頭は、定点カメラで部屋の入り口だけが映っていて、電話で女性が話している声だけが聞こえている。どうやら声の主は心臓発作で救急車を呼んでいるようだ。
暗転してシーンが変わると、病室のベッドで寝ている初老の女性が居る。マリアである。えっ!?自分で呼んだのか…!?と、この出来事だけでもう既に、一見、変哲のない地味に見えるマリアが実は行動力のある女性であることが窺える。
相部屋となったヴェロニカとの会話から、病院の場所がベルギーであることや、マリアもヴェロニカも共にスペイン出身であることがわかる。
若いヴェロニカは、ルールに構わず自由に行動をする。価値観の違いに驚いていたマリアが、段々と触発されて影響を受けていく姿は、好奇心旺盛なんだなぁ〜と可愛らしく思えるし、また、ヴェロニカもマリアに触発され、煙草を消したり、散髪を手伝ったりと気遣うようになったりして、2人の親交はとても素敵だった。
2人共、病気が治って、一緒にスペインへ行ければいいのに…と思っていたら、若く奔放なヴェロニカの方が実は難病で、マリアより先に逝ってしまうのである。とても残念に思った。
対して、元気になったマリアは、家族を放って単身、傍らに遺灰を持って、ヴェロニカのルーツを知る旅に出るのである。
もう入院する前のマリアではありません。家族が携帯に電話をかけてきても出ません。幼い頃から、そして結婚しても、常に家族のためにつましく厳粛に生きてきたマリアは今、水を得た魚のように、スペインで奔放に行動するのです。まるでヴェロニカが重なるようで、時々、ジーンとさせられました。

結論を伝えるような作品ではありません。ヴェロニカとの活気ある時間と対比して、マリア単身の旅は淡々としていて、終わりがありません。
でも、誰の人生だってそうですよね。終わりがいつかなんて分からないし、静と動が毎日めくるめくあるわけじゃない。でも、そこには必ず、人の数だけの、人間の価値と尊厳がある。
こういう静かな映画って私は嫌いじゃないです。