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アムステルダムのambiorixのレビュー・感想・評価

アムステルダム(2022年製作の映画)
3.2
1930年代のニューヨーク。第一次世界大戦の復員兵であり医師でもあるバート(クリスチャン・ベール)はある日、同じく復員兵で親友のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)から呼び出しを受けます。聞けば、2人が戦場で知り合うきっかけとなったミーキンズ将軍が亡くなったというのです。将軍の娘リズは「父親は誰かに殺されたのだ」と確信しており、バートに解剖を依頼します。しぶしぶ依頼を引き受けたバートでしたが、将軍の身体を解剖してみると、胃の中からは毒物が。そのことをリズに報告しようとした矢先、彼女は何者かに突き飛ばされ、車に轢き殺されてしまいます。そしてあろうことか、真犯人によってバートとハロルドがリズ殺害犯の濡れ衣を着せられてしまうはめに。方々を奔走しながらなんとか自分たちの無実を証明しようとする2人ですが、その裏にはアメリカ全土を揺るがす恐ろしい陰謀があって…。という、非常にシンプルかつ面白そうなサスペンス風味のプロットで幕を開ける本作『アムステルダム』ですけど、そうは問屋が卸さないのが監督のデヴィッド・O・ラッセル。この人の作品は『世界にひとつのプレイブック』と『アメリカン・ハッスル』とこれの3本しか見てませんが、なんだろうな、一見したところは純粋娯楽映画っぽい語り口でお話が進むし、アクの強い登場人物がたくさん出てくるので、序盤の展開を見ている分にはめちゃめちゃ面白いんだけど、いざ映画が終わってみると毎回どっちらけになってしまう。スカッとさせてくれないのね。まあでもそれは、「はい、ここが感動するところですよ!」「ここは笑うところですよ!」みたいなわかりやすくあざとい演出を意図的に避けているともいえるわけで、見方を変えればアンチカタルシス的なストーリーテリングこそがこの監督のウリなのかもしれません。本作『アムステルダム』に関しても、導入こそ王道サスペンスっぽいものの、全編を通してオフビートなコメディノリが強め。2人ともうひとりの主人公であるヴァレリー(マーゴット・ロビー)は常に何者かから命を狙われている身なのですが、彼らと彼らを取り巻く人々とのやり取りにはいまいち緊張感がなく、終始ゆる〜いテンポでお話が進行していきます。かと言ってそれが面白いかというと別に面白くもなんともなく、そのくせ印象に残るセリフやギャグやなんかも別になかったかな…。で、最終的にこの映画は何を言いたかったのか、わざわざ舞台を1930年代のアメリカに設定して何を伝えたかったのかというと、物語の終盤でディレンベック将軍(ロバート・デ・ニーロ)が披露するスピーチの内容がすべてなんだと思う。たしかに、金持ちの企業が結託して国を乗っ取ろうとしているだのファシズム復権の風潮に対する注意喚起だのいうメッセージはわりと現代的。軍人でありながら、「お国のため」という大義のために無辜の民草が使い潰されていく現状を嘆き、権力者たちの欺瞞を暴露してみせる彼の演説は本作で数少ない感動ポイントのひとつと言っても過言ではないかもしれません。なんだけど、それでもマジもんの悪党は法の網をかい潜り続けるし、戦争もやっぱり起こってしまう。世界は90年前から何も変わっておらないのだ、ということを痛いほど思い知らされます。ちなみに、本編に出てくる陰謀ちゅうのは冒頭のテロップやエンドロールのアレで示される通り「ほぼ実話」だそうなのですが、「実話」と言わずわざわざ「ほぼ実話」なんつってセコい逃げ道を作るぐらいなら、映画オリジナルのウソを思いっきり盛り込んで破茶滅茶に暴れるなどしても良かったんじゃあないのか。デヴィッド・O・ラッセル当人からは「いや、おれはそんな路線目指してないから」と言って一蹴されそうだけど、ハリウッドスターを湯水のごとく浪費してまで描きたかったのがこれなのか?という心持ちは拭えなかった。開巻でいきなりアホみたいな死に方をするテイラー・スウィフトにいたってはよくこんな仕事受けたよなあと思っちゃうしな(笑)。
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