なすび

嵐が丘のなすびのレビュー・感想・評価

嵐が丘(1988年製作の映画)
4.0
うお…うおおお、うおおおおお!今まで見た『嵐が丘』映画化の中ではダントツいちばん良かった。凄まじい。嵐が丘の小説のすごさって何かといえば、激しさだと思うんだけどこの映画でもとにかく何もかもが激しくてすごかったです…

トニ・モリスンの『青い眼がほしい』の中に
「愛は、愛する者以上のものには決してならないのだ。よこしまな人々はよこしまに愛し、はげしい人々ははげしく愛し、弱い人は弱々しく愛し、おろかな人々はおろかな愛し方をするが、自由な人間の愛が安全なことはかつてない。」
という文章があるのだけど、ヒースクリフとキャサリン(この映画の中では鬼丸と絹)の愛はまさにはげしい人々ははげしく愛することしかできないのだと思わされる。さらに2人の生い立ちや血筋、住んでいる環境全てがそのはげしさの根源であり一要素であるのだと思う。鬼丸は絹を愛し、激しく愛するからこそ呪い、憎み、その矛先は絹を奪った一族や、絹の体を蝕んだ大地や、絹が行くことになったあの世にまで及ぶ。

主演二人の演技がすごい。てか適役です…

田中裕子の、あの声。どこから聞こえてくるのかよくわからない、一度地獄を経験して帰ってきた人みたいに落ち着いた声。それから左右非対称の顔。丸い手鏡をのぞきながら「鬼丸はあたし。あたしは鬼丸」という時、本当に半分は鬼丸で半分は絹なんじゃないかという気がした。あんな田中裕子のせがむ顔に「鬼丸、裸になれ」と求められたら断れないと思う。京マチ子とはまた違う、純粋さが強いだけにもっとイっちゃってる能面顔。こんな女優だったんだ、おそろしいね。他の出演作も見てみたくなった。

松田優作は待ってましたァ!こういう役が見たかった!似合う!183センチのバケモノ体格を生かした、マジガチの鬼👹こんな男が山奥に住んでたらそりゃたまに村に降りてきたら怖いわな。竹刀の使い方が獣的。顔も怖いし声も怖いし雰囲気が何よりヤバすぎて、いや松田優作はたぶん鬼丸を演じるために生まれてきたんですよ。色黒なのもいいよね、脱いだ時の体もすごかった…。ほんとに、乳の揉み方が荒々しすぎて見てるこっちが「やめてっ…!」ってなる。田中裕子に背後から襲われる感じもゾクゾクした。

音楽、舞台(すごいところ…)、祭りのシーン、殺し合いのシーン、全部雰囲気が統一されていて見応えある。長いけど、ゆっくりじっくり進むのが、嵐が丘の小説を読んでいたときの苦痛と全く同じで「これ、これ…この苦痛なのよ…嵐が丘ってまじでもう二度と読み返したくないような傑作なの…」って思い出しました。吉田義重監督の他の作品も見たいな!

最初のほう、琵琶で弾いてた歌、ぜったいKate Bush のWuthering Heights ですよね!!あの歌めちゃ好きです!!今のところ、嵐が丘の翻案だと歌がいちばんでこの映画が二番目に好き!
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