みおこし

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-のみおこしのレビュー・感想・評価

3.7
意欲的に良作を生み続けるロン・ハワード監督による、Netflixオリジナル作品。本作でグレン・クローズはアカデミー助演女優賞にノミネート。しかも同時に同じ役でラジー賞にもノミネートされたというニュースもありましたが、これって前代未聞だと思うのでびっくり。解釈は人それぞれかと思うのですが、個人的には彼女の演技圧巻だったのでラジー賞とは心外すぎる!!(怒)

あらすじは割愛しますが、オハイオ州出身のベンチャー・キャピタリストであるJ・D・ヴァンスによるベストセラー回顧禄の映画化。
ヒルビリー(Hillbilly)とは、もともと山に住む白人労働者階級のこと。彼らにまつわる有名なお話として、かつてウェストバージニア州とケンタッキー州の川を隔てて住んでいたハットフィールド家とマッコイ家の抗争(ディズニーのオムニバス映画『メイク・マイン・ミュージック』の中でも”谷間のあらそい”という短編アニメとして取り上げられている)がありますが、本作の主人公ヴァンスは、このハットフィールド家の末裔。
どちらかというと”田舎もの”を揶揄して使われる言葉だそうで、映画やドラマでも強めの訛りや貧困イメージ、内輪主義…のような描かれ方をされがち。実際にヴァンスの故郷ミドルタウンは、ドラッグがはびこり最低の教育や生活水準ということで、なかなか若者の将来的な成功が見込める環境ではない場所。そんな中でも、イラク戦争に出征して期間後はイェール大学ロースクールへと進み、テクノロジー・ベンチャー企業を支える役職に就いたヴァンス。ここに至るまでの道のりは決して順風満帆ではなく、本作はそんな彼の半生にフォーカスした1本。

ドラッグに溺れとっかえひっかえ男性との交際を繰り返す母親役を演じたエイミー・アダムスの鬼気迫る演技には誰しもイライラすること間違いなし…(笑)。どれだけヴァンスや彼の姉から救いの手を差し伸べても、ことごとくそれを裏切り続ける母ベヴ。いくら家族とはいえ、こんなにもひどい仕打ちを繰り返されてるのに、ヴァンスの人生をムダにするべきではないのでは…?と感じてしまい、序盤はなぜ彼が家族を見捨てないのかが分からなくて共感できませんでした。
ただ、ここに至るまでの過程を支えてくれたのもまた家族であるということに変わりはなく、特に祖母マモーウの献身あってこそ。苦い過去をもたらした一方で自分というアイデンティティを創り上げてくれた故郷に対する、ヴァンスの複雑な思いがひしひしと伝わってくる展開でした。

個人的には、後半の祖母との生活辺りからは夢中で観ることができたので、もっと全編通して彼女との絆を強く描いてくれたほうがより感情移入できたような気がしました。この部分の尺が短い点が、グレンのせっかくの熱演が物語の中でも中途半端な印象に終わってしまう要因なのかなと推察…!それでもグレンの演技は最高で、『ターミネーター2』が大好きで、口は悪いし娘に甘いところもあるけれど孫想いのおばあちゃんという絶妙なキャラクター、まさに彼女しか成しえない役柄だなと。

決してただ逆境を乗り越えたエリートの感動物語ではなく、少年の回想を通してヒルビリーの人たちの状況や生活、現代アメリカの抱える根深い問題について警鐘を鳴らした1本。
みおこし

みおこし