正善院市法秀

母は死なずの正善院市法秀のレビュー・感想・評価

母は死なず(1942年製作の映画)
4.0
昨年、ラストはこれでと温存しておいた鶴田さん出演の「薔薇合戦」を鑑賞し、鑑賞不可能な「勝利の日まで」と「不良少女(鑑賞できるのかは不明)」以外はフィルマにあがっている成瀬作品コンプリート。
再確認したところ、本作だけが未レビューだったので記憶を手繰り寄せてチョロっと。
最も印象に残っているのは、仕事を見つけるために歩き回る菅井一郎さんの足元に写り込む影で(日時計のように)時間の経過を表現していたところ。
最後のショットで微かだが一瞬足がもつれる小ネタもあったように記憶している。
国策的演出も上手に施されていた。

ストーリーに関して

勤めていた証券会社が倒産し、妻子のためなら…と始めた当時は最最下層の仕事として描かれていた床屋の鏡拭きを一生懸命元気と笑顔を絶やさず地道に続けていた。
そんな矢先の不幸だっただけにどれだけやりきれなかったことか。
もちろん小学生の息子には妻が自ら命を…ということは秘密にして生きていく。
子供を残して妻(尋常ではない内助の功)に先立たる夫は傍から見ていても本当にしんどい…
しかもあんな内容の遺書まで…
単に時代が…では片づけられない生まれ育った家系を重んじつつ家族のためにといった内容であった。
とにかく妻のことが忘れられない男は、いつなんどきでも妻の存在を感じながら生活している。
紆余曲折あり(完全ネタバレ自重のため)最後はハッピーエンド。

同年に公開された小津監督の「父ありき」のような父と息子との絆を描いたものではなく、夫と亡き妻との絆といった色合いが強い作品。
どちらも甲乙つけがたい良作だと思う。
正善院市法秀

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