keith中村

殺人ホテルのkeith中村のレビュー・感想・評価

殺人ホテル(2020年製作の映画)
4.0
 邦題がこれ以上ないくらい即物的に、ボディカウント映画・スラッシャー映画以外の何者でもないことを示しているので(原題の"Kadaver"は、英語の"Cadaver"と同じ単語だろうけれど、であれば「死体」だから、やっぱり即物的)、リストに入れてからしばらく観てなかったんだけれど、いざ観てみると予想以上に良かった。
 
 もちろん、全体としては「よくあるホラー映画」の枠を超えてはこないんだけれど、いろいろ好感が持てました。
 
 何よりよかったのが、「アイズ・ワイド・シャット」のホラー版みたいな幻想演出。
 舞台をはじめ、カラーコーディネートやコスチュームも含め、しっかり作り込まれているので、プロダクション・バリューが非常に高く見える。まあ、それだから、キューブリックをも連想しちゃったわけです。

 また設定が、核による全面戦争のあとの荒廃した、それでもぎりぎり文明を保っている世界であり、そうはいってもこれから先には滅びしか待ち受けていない、という状況になっている。
 これが「アイズ・ワイド・シャット」の原作者であるシュニッツラーも含む「世紀末ウィーン文化」繁栄・繚乱のあと、約半世紀も続いてしまう動乱・戦乱の時代をも想起して、そこも良いですね。
 
 怪しい屋敷に入って物語が始まり、屋敷を出て物語が終わるというのも、ゴシック・ホラーの基本中の基本がしっかり踏襲されている。
 
 駆けずり回ったり、暴れまわったりする人物たちがきっちり汚れていくリアリズム描写も好感が持てました。
 今の邦画にいちばん欠けてるのがこれですね。どんな冒険をしても、特に女優さんはさっきシャワーを浴びたばかりのようなツルツルの顔に、おろしたてみたいな衣装なんだもの。
 
 何より終盤に期待してたのが、第一幕の、主人公が女優さんだって設定がどう活かされるんだろうか、ってこと。
 国立劇場でマクベス夫人を演じたことが提示されましたよね。
 これ、絶対重要なキーになる設定ですよね。
 
 と思ってたら、第三幕のクライマックスで、いよいよそれが発揮される。
 しかもそれが、「演技で誤魔化して一時しのぎにちょっと助かりました」みたいな小さな行動じゃない。
 「女優の才能を使って、観客の興味を惹きつけて魅了する」なんだもの。
 これって、メタな次元で、映画そのものの機能について自己言及してるわけでしょ? でもって、物語内ではこれにより事態が解決に向かっていくという運びになっているわけでしょ?
 そりゃ映画ファンとしては、好きにならずに居られません。