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ある人質 生還までの398日のmaverickのレビュー・感想・評価

ある人質 生還までの398日(2019年製作の映画)
4.2
2019年のデンマーク・スウェーデン・ノルウェー合作映画。ISの人質となりながら、奇跡的に生還したデンマーク人写真家ダニエル・リューの実話を基にした作品。


内容的にも重たい作品性。ダニエルが写真家となる経緯が描かれる序盤だけは割と軽め。だが彼が現地で拘束されてからは緊迫感がずっと続き、取り戻すために奔走する家族の姿には胸が痛む。主人公側と家族側との、両者の視点から事件が描かれている部分が見どころである。ダニエルが過酷な環境下にある中で、家族はどう立ち回っていたか。救出を手助けする専門家の動きも興味深い。テロリストとは交渉しないと政府は決めており、国には頼れない。そのような状況下でダニエルはどのように生還したのか。真相に驚く。

卑劣なISの行為には怒りしかない。その暴挙を世界に伝える人も必要である。だが彼らに捕まると高額な身代金を要求され、それを払うとテロの支援金とされてしまう。これに関しては確かに難しい問題であり、本作でもそれを考えさせる。ダニエルはしっかりと許可を取り、その範囲内で活動をしていた。にも関わらず襲撃されたのである。テロリストにはルールなど通用しない。だがそれを放置するのもそれはそれで問題だ。ルールを破った者は裁かなければならない。人質が取られても全く関与しない政府というのも愚かであると個人的には思う。

国に見放されても諦めずに金を集めようとする家族。ダニエルが夢破れて写真家に転身した時も甘やかさずに金にはシビアな面を見せた両親だが、高額な身代金を用意するために皆で団結する。少々冷え切った関係性の姉が献身的なのも涙を誘う。どんな時にも兄の味方をする妹の優しさ。家族の愛を感じさせる感動的な話である。

ダニエルを演じるために過酷な減量もしたエスベン・スメドの熱演が光る。テロリストとの交渉役として渋みのある演技を見せるのは、本作の共同監督も務めたアナス・ベアテルセン。気丈な姉を力強く演じるのは『特捜部Q 知りすぎたマルコ』のソフィー・トルプ。ダニエルと同様に捕まったジャーナリスト、ジェームズ・フォーリーを演じた『ロックンローラ』のトビー・ケベル。兄思いの愛らしい妹を演じるのは『ライダーズ・オブ・ジャスティス』のアンドレア・ハイク・ガデベルグ。全員が魅力的で目に留まる。


ダニエル奪還の決め手となる方法が驚き。これが無ければ彼は助からなかったかもしれない。テロリストに対する政府への対応など、様々なことを考えさせる話でもあった。真実を基に、感動的な話に仕上げた力作である。
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