たけちゃん

セブンのたけちゃんのレビュー・感想・評価

セブン(1995年製作の映画)
5.0
これは始まりに過ぎない……


デヴィッド・フィンチャー監督 1995年製作
主演ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン


シリーズ「映画で振り返る平成時代」
今回は平成8年(1996)を振り返ります!

アムラーが流行語となり、「Don't Wanna Cry」がレコード大賞を受賞した安室ちゃんの年。grobeに華原朋美と、小室ファミリーがチャートを席巻しましたよね。
でも、ミスチルの「名もなき詩」が売上1位。
スピッツの「チェリー」もこの年でした。
ドラマ「ロング・バケーション」の影響もあり、主題歌の「LA・LA・LA LOVE SONG」もヒット。思い出すと意外と多様だなぁ。


映画では「ミッション・インポッシブル」の第1作が公開、大ヒットしました。今も続く人気シリーズになるとは思わなかったけど「スパイ大作戦」好きでしたから、この作品は興奮しましたね。
「ジュマンジ」や「007ゴールデンアイ」もこの年でした。
子供が出来たこともあり、ここから数年は劇場鑑賞はなし。もっぱら円盤鑑賞となります( ¯−¯ )フッ




この年、僕個人にとって人生の一大転換点を迎えます。
実は長女が生まれ、親になりました\(^o^)/

前回のレビューで、父が癌になった件は書きました。余命3ヶ月と言われ、とにかく直ぐに手術をしますと言われた頃、僕も地元で仕事を始めたばかりでした。父は術後の経過がよく、奇跡的に快復し、元気になったこともあり、僕の実家に妻を呼び寄せて、2世帯での新しい生活を始めたんです。

病気になったばかりの頃は、僕が長男だったこともあり、うちの親父は孫も知らずに亡くなるんだなぁと思ったのですが、そんな中、子供ができたという嬉しい話が。
何とか父の存命中に1人は孫を抱かせられました。結局、そこから1年ほどで父は癌の転移が見つかり亡くなってしまい、2番目以降は会わせてあげられませんでしたが、何とか1人は間に合い、親孝行できたかと思ったものです。


娘の誕生は、僕にとっても本当に大きな出来事でしたね。
母親は自分のお腹にその存在を感じるんですから、それは身近なんでしょうが、男親って生まれてくるまで実感に乏しいんですよ。生まれて、抱いて、ようやく我が事として感じるんです。
出産は人生観が変わるほどの出来事でした。
もう、典型的な親バカで、以降、しばらくは子供中心の生活となり、5年ほど、テレビや音楽、映画から遠ざかります、この僕が!すごいことですよね(笑)





さて、映画です。
娘が生まれた話題の中でのチョイスとしては、全く相応しくない作品ですね(‐ω‐;)
一応、観たのは生まれる前なので……オナカニハイタヨネ

僕はこの映画、大嫌いなんだけど、大好きなんです。
こんな胸糞悪い作品、もう観ない!
って思うのに、また観たくなる(‐ω‐;)
これがフィンチャーのマジックか!
そして、僕はこの作品が持つテーマ故に、今作がフィンチャーの最高傑作だと思ってますからね。

監督のデヴィッド・フィンチャーは、「エイリアン3」に抜擢されて監督デビューしたのに、散々な結果で、もう監督はやらないと思ったほどでしたが、次作となるこの「セブン」で一躍ヒットメイカーとなりました。




胸糞悪さばかりが残って、その真意はしっかりと伝わっていないと思われる今作。以下に少しネタバレしつつ、僕の考えを書いておきます。
観てない人は、ここまでで( ¯−¯ )フッ




よく知られているように、今作はキリスト教の「七つの大罪」に基づいた映画です。

【七つの大罪とは】
キリスト教の、主にカトリック教会で用いられる用語で、"Seven Deadly Sins"「死に至る罪源」と言われる。
その内訳は、

「高慢(Pride)」
「強欲(Greed)」
「嫉妬(Envy)」
「憤怒(Wrath)」
「肉欲(Lust)」
「大食(Gluttony)」
「怠惰(Sloth)」

の7つからなる。
これらが罪ということではなく、これらの欲望が人を罪へと導くとされる。すなわち、これらの欲に負けることが"罪"なんですね。
だから映画は、その罪に陥った人々を"殺す"ことで、欲を断ち切り、その罪を"贖わ"せようとしているのです。


そして、七つの大罪と言うとダンテの「神曲」。
「地獄編」「煉獄編」「天獄篇」を通し、地獄に落ちた主人公ダンテがウェルギリウスの導きで煉獄山を登るうちに次第に罪が贖われ、その後、永遠の淑女ベアトリーチェと共に天界へと至る話です。

でも、グラトニーとかグリードって言われると、僕はハガレン思い出しちゃうけどね(笑)



【ジョン・ドウ】
ジョン・ドウって、日本で言う「名無しの権兵衛」のことで、身元が分からない者は、みなジョン・ドウになるんです。
ちなみに、女性だとジェーン・ドウとなります。

だから、映画のなかで、自らをジョン・ドウと呼ぶ犯人は、自らを名を持つ個人ではなく、神の崇高なる行為を代わって為す者へと昇華しているんです。
そして、当然、自らも罪を持つ存在故に贖われなければならない。最後は個に戻って、煉獄で最後の審判を受けるが如く、待つんです。自ら死んでは贖罪になりませんからね。キリスト教では自殺も罪なので。
最後のあの瞬間見せる表情は、殉教者のそれですからね。神への供物のような佇まい。
だから、「神曲」になぞらえると、彼はダンテでもあり、ウェルギリウスでもあるのかな。でも、さすがに「神曲」は読んでないから分からない…….。



【エクソシスト】
フィンチャーは、フリードキン監督が「エクソシスト」の次に撮る作品としてこの映画を考えたと言っていましたが、そうすると次のような図式も成り立つのかと思います。

「エクソシスト」では、悪魔に直接的に取り憑かれたリーガンを救うために神父らが悪魔祓いを行うのですが、今作での悪魔は、罪を贖わせる神の下僕として行動するかのようなジョン・ドウとなります。そして、悪魔の誘惑を受け、試されるカラス神父の立場にいる存在がミルズだと思いました。

自ら望んで刑事となり、功を立てようと行動するミルズ。犯人を捕まえるために熱い思いを持つ。

一方、定年を間近に控え、この世界に絶望する敏腕刑事のサマセット。達観したかのように、どんな凶悪犯罪にも驚かない。


悪魔が目をつけたのは、ミルズだったんですね。
剥き出しの感情、正義への思いは、悪魔の格好の餌食だったのかも。
悪魔を追い詰めるべく必死に動くが、その思い虚しく、次々と発覚する殺人事件。焦るミルズ。そして、湧き上がる"怒り"。そうして悪魔の罠にハマっていくんです。


カラス神父が、母の死の後で葛藤するように最後の試しを受けるミルズ。ミルズは猛烈に葛藤します。
僕はミルズの最後の選択は、カラス神父の最後の場面と同じだと思うんですよね。自分の命をかけて、しかし、"怒り"からではなく引き金を引く。
あの場面のブラッド・ピットは素晴らしかった。
悪魔の側の"怒り"と神の側に立つ故の"逡巡"。
最後の彼の顔は"怒っ"てはなかった。


ミルズがカラス神父だとすると、サマセットは?
やはりメリン神父。
しかも、生き残ったメリン神父。
最後に彼はヘミングウェイを引用して、こう語ります。この世界は「戦う価値がある」と。

この世界に絶望し、隠居を考えていた彼が、再び戦いを決意して映画は終わるんです。だから、この映画は悪が勝って終わり、ではなく、新たな神の戦士の誕生譚だったんですね。素晴らしい!




さて、長くなりました。
少し映画の好きなところを。
オープニングのタイトルロールが本当に素晴らしい。
こんなかっこいいタイトルロールがありますか?
作品のジャンルはサスペンスだと思いますが、僕は音楽の使い方と合わせ、ホラーだと思った(‐ω‐;)

メトロノームと共に聞こえる様々な音。
ハワード・ショアの劇伴が怖いよねぇ。
神経を逆なでするような、ノイズというか不協和音のような曲。

そして、コラージュされる様々なもの。
サブリミナル的でもあるよね。
細かい仕掛けがいっぱいあるんです。
だから、観る度に新しい発見がある。

でも、記憶って曖昧だよね。
今回見直すまで、あの箱を開けたのはミルズ本人だと思っていた。箱の中は見てなかったんだね……。ジョン・ドウの言葉で落とされたんだ。やっぱり悪魔は言葉で篭絡する( ˘ ˘ )ウンウン



犯人に拳銃突きつけられている場面は、エイリアンに襲われたリプリーのようだったなぁ。構図が一緒。実はこの映画のスペシャル・メイクアップはロブ・ボッティン。あの「遊星からの物体X」で特殊メイクを担当した方です。
あまり語られませんが、いい仕事をしてますよね( ˘ ˘ )ウンウン

ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロウ、みんな良かったんだけど、ジョン・ドウはケヴィン・スペイシーだったんだなぁ。今回観るまで気づかなかった。新発見!




さて、最後は音ネタ💩ウンチクンです\(^o^)/

スコアを書いているのはハワード・ショア。
ハワード・ショアって、クローネンバーグ作品で出てきた人なので、こうした猟奇物に作風がピッタリとハマりますよね。


オープニングのタイトルロールで使われているのはナイン・インチ・ネイルズ「クローサー」です。これは痺れるほどにカッコ良い。
映画のものはリミックスバージョンで、最後に「You Got Me Closer To God」と叫んで終了。
昔観た時はナイン・インチ・ネイルズ知らなかったんで、インスト曲だと思っていました( ˘ ˘ )ウンウン


サマセットがミルズの家に招かれた時、部屋で流れていた曲はマーヴィン・ゲイ「トラブルマン」です。
この名前に聞き覚えはありませんか?
「キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー」で、ファルコンにおすすめされたのがこの曲ですよ(ˆωˆ )フフフ…


食後に聴いていたのはセロニアス・モンク「ストレート、ノーチェイサー」ですかね。ワインを飲みながらジャズとはお洒落。


エンドロールで使われたのは、デヴィッド・ボウイ「The Hearts Filthy Lesson」。ボウイ18枚目のアルバムとなる1995年発表の「アウトサイド」に収録されたナンバーで、ファーストシングルでした。
このアルバムはベルリン三部作のプロデューサーであるブライアン・イーノを再び招いて作られた意欲作でしたが、商業的には失敗して続編は作られませんでした。僕は好きだったんですけどねぇ。

この曲、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがリミックスしたバージョンがあるらしい。それは是非とも聴いてみたいなぁ( ˘ ˘ )ウンウン




「羊たちの沈黙」に始まったサイコスリラーが、ここで完成したようにも思った今作。改めて観ると演出だけではなく「エクソシスト」にも通じるテーマ性がありました。
やはりすごい作品でした。
よろしければ、どうぞ( •̀ω•́ )و✧