翔海

愛してるって言っておくねの翔海のレビュー・感想・評価

愛してるって言っておくね(2020年製作の映画)
3.7
辛い気持ちは同じなのに
すれ違ってしまう夫婦
寄り添って辛さを二等分できたのなら。

アカデミー賞短編アニメ映画賞受賞。
校内銃乱射事件による娘の死から立ち直る夫婦の物語。全編12分のアニメーションは悲惨な事件に項垂れる夫婦と元気だった頃の娘の記憶を思い返し、命の儚さと尊さを教えてくれる作品。

約束された明日など存在しない。
どんなに健康な人でも不慮の事故や不作為に狙われた殺人で命を落とすことがある。暫し、ニュースでそうゆう報道を見るけれど自分の身近で起きていないと実感もないし危機感もない。この作品はその被害者家族にスポットを当てて、突然に家族を奪われて行き場のない気持ちにすれ違う夫婦の様子を表した作品。落ち込む二人だったが娘の部屋から流れるレコードプレーヤーの音がして、入ってみると昔の頃の記憶を思い出してゆく。元気のない夫婦を元気づけようと娘の影は二人を見守る。楽しかった日々が影の夫婦と娘で描かれて、そこから悲劇の事件へと流れてゆく。

客観的にこの作品を見ていたけれど、私もこの夫婦と似た境遇なのかもしれない。私は父を交通事故で亡くしており、父の死から十数年経っている。その当時の記憶は曖昧であるが、子供ながらに後悔と行き場のない感情に襲われたのは覚えている。けれど、この夫婦と私の立場が違うのは親と子供という位置関係だと思う。家族を失う悲しさは同じだけど、抱く感情は大人のほうが人生を歩んできた長さが違う。子供だった私は家族の死に対する感情に上手く整理できなかったのだと思う。大人になってからあの頃のことを少し思い出しては考える日々を送っている。今でも後悔ややり残したことがたくさんあって、昔の父の写真を見たりすると生きていればと思う事も暫しある。それでも前を向いて生きて行かなければならない。
翔海

翔海