永遠の寂しんぼ

おもいで写眞の永遠の寂しんぼのレビュー・感想・評価

おもいで写眞(2021年製作の映画)
4.2
『写真はおもいでの再生ボタン』

2月に鑑賞済み。原作は未読。
多少気になる所はあるものの観た後に爽やかな気分で帰れた傑作だった。

役者陣の演技は深川麻衣さん初めて皆素晴らしかった。美咲というホームヘルパー役の香里奈さんなんて凄い久しぶりに見たけどとっても素敵だった。(昔彼女が同じ名前の役でドラマの主演やってたのを思い出して笑った)

一度行った事があるけれど富山の街並みは美しく、その中で主人公の結子とお年寄り達の物語が丁寧に描かれていた。今作は町のお年寄り達に遺影ならぬ『おもいで写真』を撮ってもらい展覧会を目指すというお話のために沢山のお年寄りが出てくる。そのため一人一人のエピソードの掘り下げが浅くなってしまいそこを批判する人がいるのは仕方がないとは思うけれど、僕はこの作品に関してはそれでもいいんじゃ無いかと思う。今作では結子が始めた『おもいで写真』作りに少しずつ町のお年寄り達が賛同していき、疎遠だったお年寄りのコミュニティが出来ていくというストーリーなので沢山のお年寄りを描く必要がある。地域の中でお年寄りが孤立してしまうというのは現実でも起こっている事だし、その改善を描く事はとても意義があったと思う。

東京で夢破れ帰京してきた結子は嘘が嫌いで自分の意志を曲げられない欠点がある。彼女の性格でも賛否が割れそうだけど僕はこういう欠点のある主人公は好き。何故欠点を持つようになったかは彼女の過去を通してしっかり説明されていたし、彼女もそれを自覚してお年寄り達との交流や悶着を経て自分を見つめていくような人間ドラマは好きです。

劇中で撮影されるお年寄りたちのおもいでの場所での写真たちはプロの写真家の方が撮っているからか一枚一枚がとても美しく、お年寄り達の笑顔が眩しい。展覧会を通じてお年寄りたちが写真をきっかけにおもいで話に花を咲かせ、新たな笑顔のきっかけになっていく。こういう事が現実でもあったらいいのにと思う。

少し気になった事は2つ。1つ目は亡くなった結子のおばあちゃんの扱われ方。冒頭のお葬式で結子はおばあちゃんを一人残して上京した事を参列していた別のおばあちゃんに咎められる。一方で結子は初めておもいで写真を撮られせてもらった団地住まいの和子おばあちゃんには自分のおばあちゃんの件について何度も慰めてもらっている。おそらく自分の子や孫を通じてたくさんの人生経験を積んできた和子おばあちゃんには結子のおばあちゃんの気持ちを察する事は容易だし、それ自体は良いと思う。ただ、作中では結子と彼女のおばあちゃんの関係について非難する人と肯定する人の二人だけで二極化してしまっている。別に上記のおばあちゃん2人じゃなくてもいいから、誰かしら結子のおばあちゃんの事を話してくれる人がいてくれた方がより結子の成長に説得力が増して良いのにと思った。結子のおばあちゃんは生前写真館を営んでいて、とても優しい性格で地域の人とも関わりもありそうなのに、お葬式にも全然参列者がいないのは何故だろう?

2つ目は高良健吾さん演じる町役場で働く一郎について。団地に住むお年寄りの名前を(たぶん)全部覚え、町のホープとよばれるほど地域に貢献している素晴らしい人なのだが、映画後半の動きがやや気になった。あんなに地元が好きで地元に尽くしていた彼が何で東京へ行く事を考えていたのだろう?そこがよく分からなかったし、最後との結子とのやり取りにもその点で少し疑問が残ってしまった。

全体としては今年の1月2月にあまり良い映画に出会えていなかったこともあって久しぶりの爽やかな快作だった。僕も大のおばあちゃん子なので、実家に帰った時は遺影とか関係なくいつかおもいでになる写真を撮ってあげたくなった。