深澤うろこ

ドライブ・マイ・カーの深澤うろこのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

濱口竜介の前作『寝ても覚めても』に強烈な印象をおぼえて、本作の情報をずっと追いながら楽しみにしてきた。
楽しみにしすぎてハードルが上がってしまって逆に楽しめないのではないかという不安が脳裏を掠めたが、終わってみれば杞憂中の杞憂だった。

今年一番の傑作、どころか少なくとも2020年代を代表するような一本だった。

長尺であることをまったく感じさせないのは、演出というにはあまりにどのカットも「自然に撮れてしまった」かのように肩の力が抜けていて、私たちは「観察」させられる。作者はただその傍らに立ち向かい合うのではなく、横並びに同じ方向を向いている。

「ロールを演じる」ということについての映画だ。そうして「演じていない自分」にいつか届くだろうかと願う映画だ。
私たちは「自分」を直接見ることができない。思弁のなかに、映像のなかに、鏡のなかに、他人のなかに存在する「自分らしきもの」を自分であると信じて生きている。

信じるということが私たちにできる最善の行為だ。それは愛することとも繋がっている。
他人を信じること、他人のなかに像をむすぶ「自分」を信じること。
大丈夫だ、大丈夫だと優しく語りかけてくる終盤に、涙が止まらなかった。

どうしようもない人間賛歌だった。
スクリーンの向こうにたくさんの人が「生きて」いた。それをただ信じたくなった。
深澤うろこ

深澤うろこ