JunichiOoya

ドライブ・マイ・カーのJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
5.0
8月、9月、10月と3回見た。原作は刊行時は別として、映画公開絡みで4回。後は『文學界』9月号の濱口竜介・野崎歓の対談、『シナリオ』11月号、そしてもちろんパンフレット。
濱口竜介さんの映画はいつもそうだけど、とにかく執着してしまう。機会があれば、きっとまた繰り返し見に行くことになる。

一等最初、「ああもう一回見よ」と思ったのはエンドロールに「青年団」の名前を見つけたから。
平田オリザさんの本は何冊か読んだけれど、芝居は、松山公演を見る機会があって、でもそれ一回きり。
もちろん私は映画ファンなので、想田和弘さんの『演劇1』『演劇2』は二回ほど見てはいるけれど。
そこからいろんな資料に手が出て、「ああ、こんなことも」「そう、あれも…」って。

濱口さんの映画は、もちろん『親密さ』だけじゃなくて、その徹底した本読みがやっぱり特徴でしょう。
そうした時に平田さんのメソッドとの親和性は自明で、お二人がコミュニケーションし合わないはずは無いと思ってた。

そこにエンドロールの発見があって、パンフレットの最終ページ見開きを矯めつ眇めつして…。

多言語演劇や手話演劇についてもそこから色々見ていくことができて。


実は映画を見る前にはいくつか危惧もあったのは事実。「なんで(妻が選んだ)黄色のサーブじゃないの?」「なんでキャンバストップのサーブじゃないの?」「なんでみさきは165センチじゃないの?」「なんでみさきは肩幅が広くないの?」云々。
実際私の中でのみさきは、瀧内公美をキャスティングしてたほどですから。

極め付きは「霧島れいかさんが何の役をやるのよ?」「映像として(つまり声だけじゃなく)妻を見せてどうすんのよ?」

みさきを紹介する自動車修理工場のオヤジ(いや、原作通りのシナリオだったとしたら、ですけど)は、川瀬陽太さんぽいよな、とかね。

でも実際の映画は、家福とみさきの「喪失」だけじゃなくて、羽原と女のセックス絡みの喪失、木野と無口な男の「なるべく普通のスコッチをダブルで、同量の水で割って、氷を少し入れた」酒を間にした話から語られる喪失、そうしたものたちが同量かそれ以上を占める大きな話になっていた。

先に触れた『親密さ』は別格としても、本読みのシーンは東北記録映画三部作と重なるし、北海道への道行は『寝ても覚めても』で仲本工事に会いに行くシーンを思い出す。
ああ、この人は未だ語り尽くせない無常や酷薄を繰り返し繰り返しことばと映像に紡いで見せてくれているのだと。

師走に見る『偶然と想像』がどれほど素晴らしいのか、ちょっと恐れ慄いているのだけれど、21年のマイベストテンは外国映画も含めて濱口さんのワンツーフィニッシュになることは間違いない。
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