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ドライブ・マイ・カーのCOLORofCINEMAのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

●何を足し何を削るか、そして膨らませるか。
村上春樹原作短編小説集『女のいない男たち』
(曰くコンセプト・アルバムのようなもの)。
骨格となるドライブ・マイ・カー。
サブテキストしての木野、シェラザード。
そしてチェーホフ「ワーニャ伯父さん」
(原作では「ヴァーニャ伯父」一行だけ記述)。
テキスト(言葉/会話)が演者を現実を侵食していく。
「…チェーホフはおそろしい」
車の中という密室。
そして、これは映画でもあり演者を写し取る鏡でもある。
何を写し、何を映さないか。

●劇中で用いられる他言語。
それは最初の舞台シーン「ゴドーを待ちながら」で提示される。
家福(日本語)ともう一人の演者(ホリゾントに字幕でインドネシア語/英語)
さらには韓国手話も。
ラスト。
パク・ユムリ演じるイ・ユナ。
失意のワーニャ(演劇祭で結果、演じることとなった家福)を励ますソーニャ(イ・ユナ)。
肩を抱くような形で後ろから手話で語る。
ここは「音」ではない形で。
「生きていかなければ」

●構成は基本的に「東京編」と「広島編」
さらに北海道編」Codaとして「韓国編」
●「東京編」
まず家福の妻、音とのセックスシーン。まだ仄暗く顔が見えない。
音から発生する物語。
それを家福は翌日、サーブの中で聞かせ直す。
ある日、予定していたウラジオストック便が飛ばず、仕方なく家に戻った家福が目撃する音の浮気現場。
鏡に映った、その姿を家福は見る。
(角度からすると気づいていないのだろうか?)
これは後に広島でのオーディションシーンで(音の相手であろう)高槻(岡田将生)とジャニス・チャンが演じるキスシーンの鏡と繋がる。

ある時、告げられる「話したいことがあるの」
しかし、家福はその続きを聞くことができないまま、音を失ってしまう。
ここでキャストクレジットが現れる(端正なフォント選び)

●「広島編」
ドライバーとして雇われるみさき。
最初は自分にとって大事なひとりの空間を他人に任せられないと固辞するが、みさきの見事な運転、特に車線変更(音が運転している時に「あの場合はすぐに車線変更しないと」と細かい指摘をしていた)を見て任せることにする。
始まった演劇祭オーディション、
音の浮気相手のひとりだとわかっている高槻をワーニャへとキャスティングする。

トラブルが多く、かなり不気味さを漂わせる高槻。
その高槻から聞かされる妻「音」の別の側面、物語の続き。
サーブの密室の中で初めて直接対峙する家福と高槻。
この時カメラは切り返しショットでふたりの顔を捉える。
「やつめうなぎの話の続き」を話しながら、ぼわっと浮かび上がる高槻の顔がホラー(怪異譚)のようだ。

●「北海道編」
エッ?!
マジで…北海道まで車で...
(と、思ったが、この距離、この時間が必要)
家福にとっては亡くなった娘が生きていれば、みさきと同じ年齢でもある。
やがて、(安直な言葉で言うならば)再生の旅が終わる。

●3時間、スクリーンに映し出される出来事を観察するように見続けた我々(観客)が最後に辿りつく希望あるラスト。
みさきがスーパーで買い物をしている。ハングルが書かれた商品。
マスクをつけている。赤いサーブ。後部座席に犬の姿が。
はたして、これは家福から譲り受けたものなのか、どうなのかはわからないが後ろから顔を覗かせる犬とみさきの笑みをフロントガラス越しに捉えたショットは至福な瞬間をあたえてくれる。
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