てっぺい

ドライブ・マイ・カーのてっぺいのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.0
【重なる映画】
突如なくなる舞台演出家の妻。車中で亡き妻の音声で舞台台詞を暗記する姿は愛そのものであり、またそれが劇中での心情と重なっていく芸術的な脚本。妻が“重なる”事も、物語の重要なキーワード。

◆トリビア
○ 題名にもなっているザ・ビートルズの曲「ドライヴ・マイ・カー」が使えなかったため、ベートーヴェンの音楽で統一された。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ドライブ・マイ・カー_(村上春樹))
○ 2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞のほか、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞を受賞した。(https://eiga.com/movie/94037/)
○ 『ドライブ・マイ・カー』の他に、同作が収められている短編小説集『女のいない男たち』収録の『シェエラザード』『木野』も映画のモチーフとしている。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ドライブ・マイ・カー_(村上春樹))
○ 劇中では9つの多言語が飛び交う。韓国・台湾・フィリピン・インドネシア・ドイツ・マレーシアからキャストがオーディションで選ばれた。(https://dmc.bitters.co.jp/)
○当初韓国釜山を主なロケ地としていたが、コロナ禍で脚本を練り直し、全体の2/3を広島で撮影した。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ドライブ・マイ・カー_(村上春樹))
○ 劇中の車は原作では黄色のサーブ900コンバーティブルだが、風景に映えるように等の理由で赤色のサーブ900ターボに変更された。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ドライブ・マイ・カー_(村上春樹))

◆概要
【原作】
村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」
【脚本】
濱口竜介、大江崇允
【監督】
「寝ても覚めても」濱口竜介(「偶然と想像」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞)
【出演】西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいか
【公開】2021年8月20日
【上映時間】172分

◆ストーリー
舞台俳優で演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と幸せに暮らしていた。しかし、妻はある秘密を残したまま他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた彼は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中で、家福はそれまで目を背けていたあることに気づかされていく。


◆以下ネタバレ


◆舞台
主人公が舞台演出家である事が本作の何よりの特徴。車中で繰り返す台詞の一部一部が、劇中の登場人物の心情とリンクしていくのがあまりにも芸術的で写実的。ラスト、全てを吐露し自分と向き合ってくれたみさきに呼応するかのように、自らの全てをさらけ出し自分を見つめ直す事ができた家福。“テキストが強すぎる”と避けていたワーニャ役もやり抜く原動力になった、つまり自らに向き合い、過去を赦し、解放し生まれ変わった家福の舞台での姿は、本作で一番輝いて見えた。

◆多言語
スクリーンに多言語が映し出される、何よりも見たくなる本作の『ワーニャ叔父さん』という舞台。稽古や読み合わせは、単調に読み始めて次への合図を送るテクニック的なものから、実際に演じた者から“生まれる何か”という本質的なものまで、舞台を作り上げるリアルさがあった。そして何より多言語である事がその斬新さと、世界的な映画祭での活躍に一役買っていることも間違いない。ただ個人的には、手話の、しかも韓国語でのものを並列に並べて、“一つの言語”として扱っていた事にとても意味があると思う。配信で邦画すら世界で視聴が可能になっている中、グローバル以上にグローバルな視点を伝えるこの映画の意義は大いにある。

◆映像
音が冒頭、家福に話した、前世がヤツメウナギの女子高生の話。映像としてはベッドでの2人ながら、家に侵入する女子高生の姿を、見ている自分の頭の中でいつのまにか作っていた気がする。高槻が車中で語った物語の続きも、みさきの出自の話も、全て回想シーンはなし。これが本作のもう一つの大きな特徴だと思う。回想シーンは、映像で説明するのが必須で常識なようであえて、本作は一切それをせず鑑賞者に委ね、作らせている。結果、映像としては単調になり飽きがくるところ、そうならなかったのは村上春樹の原作力と本作の脚本力のなせる技か。特に高槻が車中で物語の続きを語るシーンは、家福の目線、高槻の目線の映像の切り替えのみで、両者の心の中に見ている側を無理矢理にでも押し込ませるような、そんな没入感のある演出の工夫もあったと思う。
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