億千

ドライブ・マイ・カーの億千のネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

大好きな西島さんご出演の作品だったので以前から観たいなぁと思っていたのですがコロナ蔓延も著しく遠くの映画館まで観に行くことを躊躇して数ヶ月…。

そんなこんなしていたらアカデミー賞にノミネートされ、上映館数が爆上がりしたことにより、近所の映画館で観ることができました。映画館で観られて良かった。

舞台が広島である必然性は無かったようで、元々は韓国ロケをする予定だったんだそうな。コロナ禍で断念され広島に変更されたとのことでご苦労されたようでしたが、広島県民としては嬉しい限り。
見覚えのある景色ばかりで、今度巡礼してみなければと思いながら鑑賞。

本当に本当に素晴らしい作品でした。
家福さんとみさきさんの心が少しずつ重なり合って、救われていく様を観て、私たちもきっと救われている。
バックシートから助手席に座る位置が変わったの、嬉しかったなぁ。

みさきさんが家福さんに言う、
音さんが家福さんを愛していたことも、同時に他の男と関係を持っていたことも、すべてが音さんで、裏とか表とかではないのではないか、そういう風には思えないか、というセリフがとても私の中に残っている。

正直音さんは私にとって軽蔑に値する人間で、みさきさんの母親が時折幼い少女の人格になることと同様、セックス中に物語を紡ぎ出すということも本当かどうか怪しいもんだぜと思う。
だけど、嘘や演技かもしれないその設定の中で生まれた感情や2人だけのやり取り、思い出は何にも代え難いもの。それ自体を否定することは出来ないし、それを否定するのは自分の過去を否定してしまうことになるのだと思います。

苦しむのは愛しているからで、だけど苦しませてくる相手はもういない。
そんな時に自分を救ってくれるのは生きている人間で、だから人間は苦しくても生き続けていくことに意味があるのかなと思う。

アカデミー賞ノミネートが決まった時に、世界よ、西島さんを刮目して観よ!と思っていたし、今も思っているのですが、本編を観てみると、岡田将生さんの演技が洗練されまくってて、この岡田さんが世界の目に触れることになるのだと思うと、そのことも嬉しい。

車中で家福さんと高槻が隣り合わせで互いの顔を見ながら音が作った物語を語るシーン。岡田さんの瞳は宝石かよと思いつつ、あのシーンの演技が圧巻で、ちょっと忘れられない。みさきの言うように、嘘がないのだと分かる。だけどやっぱり、高槻が車で事故を起こす直前に見た運転中の表情がチラつくし、本性といえばそっちなんだろ?とも思う。だけど、何度か出てくる家福さんに謝る姿も嘘には見えなくて、心からの謝罪に見える…。そんな複雑な役を見事に演じておられました。

語り出したら止まりませんが、邦画でここまで語りたい映画は久々。そして邦画の匂いがあまりしない映画だとも思うし、その映画作りに地元が貢献できたということも嬉しかったです。
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