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ドライブ・マイ・カーのinotomoのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.1
舞台俳優で演出家の家福は、テレビドラマの脚本家である妻の音と2人で暮らしていた。彼らには、かつて子どもがいたが、幼いうちに病気で亡くしてしまっていた。2人きりでも、お互いを大事にしながら、穏やかに生活していたが、ある日家福は偶然、音の不倫現場を目撃してしまう。その事を黙ったまま、知らないふりをして過ごす家福だったが、音は突然倒れこの世を去ってしまう。2年後、広島で開かれる演劇祭に演出家として招かれた家福。妻との思い出が詰まった愛車のサーブで広島に向かうが、主催者から移動の際には専属のドライバーに運転してもらうようにと言われる。そこで家福は、無口な女性ドライバーのみさきと出会う。
監督は濱口竜介。原作は村上春樹。

海外の数々の映画賞や批評家賞を受賞し、今年のアカデミー賞の主要部門にも複数ノミネートされた話題作。配信でインターナショナル版を鑑賞。約3時間に及ぶ長編で、ほとんどBGMもなく、俳優が大きく感情を爆発させるようなエモーショナルな場面もあまりない。淡々としたタッチで進む物語は、乗り切れないと退屈になってしまうかもしれない。劇場で見たらまた違う感想になったのかもしれないけど、配信でしかも家で見たら、やはり途中で集中力が切れてしまった。配信だから、また気になる場面は繰り返し見ることは出来るのだが。

この作品の、何がそんなに海外でウケているのかと考えてみた。ドキュメンタリーとも言えそうな独特のタッチ、多様性の象徴である様々な国の俳優達がそれぞれの言語で演じる劇中劇、日本独特の情緒。プロット自体は大事な人を亡くしてしまった後の喪失感とそこからの再生で、よくあるテーマと言ってしまえばそうかもしれない。物語の中で、家福が演出を手掛けるチェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」の内容を、作品のテーマとうまく絡ませているところとか、音が生前に作っていた脚本の内容の結末が明かされるところとか、それらに一見わからないような意味が含まれていて、物語に深みを持たせているところが、人間ドラマとして評価されたのかなと思う。物語のクライマックスは、家福とみさきの旅の終わりのある場面だと思うけど、私は舞台「ワーニャ伯父さん」のラストシーンのセリフにグッときた。作品のテーマに通じるそのセリフが、韓国人の女優の手話で語られる。静寂の中で語られるそのメッセージは、いつも何かしら後悔と共に、苦悩の中で生きている人々へのエールにも思える。

主演の西島秀俊も、みさき役の三浦透子も、終始淡々と演じている印象で、正直あまり胸には響いてこなかった。あえての演技なのかもしれず。しかし西島秀俊の温かみと色気は彼の魅力であり、そこは充分に味わえる。家福が演出を手掛ける舞台の出演者の高槻を演じたのが岡田将生。高槻のキャラクターが一番人間味がある感じで私としては好印象。岡田将生が持ち前の器用さを発揮して好演していたと思う。音を演じたのは霧島れいか。私はあまりこの人に良い印象が今までなく、今回も何となく上っ滑りな演技に見えた。

漫画原作のエンターテイメント大作や、アニメばかりがウケる今の日本で、決して派手ではない長尺の作品を作ろうとしたそのチャレンジが素晴らしい。淡々と進む物語の中で、小さな起伏のように印象的な場面が訪れ、見る人によって様々な感想がありそうな、不思議な魅力を持った作品。日本アカデミー賞の最優秀作品賞はとれないかもしれないけど、本家アカデミー賞では、何かしら賞をとれるかも。いずれにせよ、日本映画がそうやって評価されることは嬉しいこと。授賞式が楽しみ。