・あらすじ
舞台俳優で演出家の家福悠介は、脚本家の妻・音と幸せに暮らしていた。しかし、妻はある秘密を残したまま他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた彼は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさきと過ごす中で、家福はそれまで目を背けていたあることに気づかされていく…。
3時間という尺で、手を出すのを少し躊躇っていたんですが、この度ようやく鑑賞しました🙌
感想:
静かな良作でした。でも少し難しい。
のでちょっとレビュー長いです🤏
良い作品でした。全然3時間じゃなかったです。体感2時間ないくらい。
語りが多くて物静かなストーリーなのに、ぐんぐん引き込まれました。まるで一冊の小説を朗読してるかのようでした。
観ている時も、めちゃくちゃ面白い!とはならないんですが、不思議と飽きることは無いんです。主人公の心情の変化、一言一言のセリフに詰まった感情が美しい作品でした。
ジム=ジャームッシュ作品とかが好きな方は、今作の評価高そうです。
今作はパートが大きく3つに分かれています。
○演劇祭前
○演劇祭の準備、ワークショップ
○運転手みさきとの旅
です。
テーマとしては、生きる喜び、過去の精算といったところでしょうか。
そんなテーマに対して、『ドライブ・マイ・カー』というタイトル。
"自分の車を運転する"とは?
そこに関してこんな風に考えました。
↓以下ネタバレを含むので、ご注意を↓
序盤は、家福と妻の"音"の関係を中心に話が進みます。
家福は、音に不倫をされ、それを黙認します。妻を失いたくないという想いがあったから。
本当は怒りたい。きちんと話がしたいのに。そんな感情を押し殺して、家福はシラを切ることを選んだんです。
しかし妻は急死してしまう。
ここまでのシーンでは、家福は愛車のサーブを自分で運転しています。自分がハンドルを握っていた訳です。まっすぐ前を見て、事故を起こさないように。
そして2年後、広島でドライバーのみさきに出会います。
最初は自分の車を運転される事を拒否しますが、カセットテープでの台詞覚えや、役者としての仕事に一切干渉してこないみさきに次第に心を許していきます。
後部座席に座り、彼女にハンドルを預けて旅をする間に、家福は今まで気づかなかった自分の弱さに気づくようになります。
自分ばかりがハンドルを握っていて、音の本心と向き合ったり、自分の感情をぶつけたりすることができなかった。それを恐れていた。事故が怖かった。
そんなモヤモヤを全て解き放つことで、改めて自分の内面と向き合えた訳です。
そして自分と同じ境遇のみさきとの対話を通して、、
自分のせいで家族を失ったんじゃない。見方を変えて前を向こう。脇を見よう。自分の心と折り合いをつけよう。
窓の外の景色は美しい。運転席からは分からなかった素晴らしい景色が広がってるじゃないか。
ハンドルを人に預ける、つまり人を心から信頼するのも、良いじゃないか。
その為にはもう一度、"自分を差し出そう"
という心情へと変化していったのではないでしょうか。
それこそが、生きる喜びの第一歩だ。というメッセージが込められているという解釈に至りました。
こういう心情変化が作中の多言語劇の内容とも響き合っていて、映画に深みが出ていました。
最初は難しい映画だと感じましたが、文学的に解釈してみると凄く優しくて力のある映画でした。
もちろん上記の解釈が必ずしも正しいとは限らないし、観た人によって色々あると思います。ただ、それこそが文学としての旨味だと思うし、奥行きだと思います。
ながーい文章でしたね🙏
というわけで、気になった方は是非👍