永遠の寂しんぼ

岬のマヨイガの永遠の寂しんぼのレビュー・感想・評価

岬のマヨイガ(2021年製作の映画)
3.5
『ちょっと生ぬるい心の復興』

この映画は『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』『聲の形』など、数々の名作アニメの構成や脚本を手がけた吉田玲子さん脚本のオリジナルアニメ映画として結構期待していた作品だった。結論から言えば、良い映画だとは思うけど、結構引っかかる所もあったかな…。

この映画は東日本大震災からの復興を遂げつつある東北3県を舞台にしたアニメ企画「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の一環であり、文化庁からの助成もあってか、いかにも震災からの復興を鼓舞するかのような教育的・文化的な内容になっている。それ自体はもちろん良くて、本作の震災で傷ついた少女2人が『マヨイガ』という不思議な家や妖怪たちとの触れ合いを経て心の傷を癒していく…というストーリーは映画として描く価値のあるものだったと思う。

序盤で丁寧に描かれる上記の少女2人とキワさんという不思議なおばあさんとのマヨイガでの生活描写は良かったし、起きてしまった悲劇を受け止めつつも、日常の中で困難を乗り越えていこうというメッセージ性は素晴らしいと思った。それに家自体が妖怪の類?らしきマヨイガも、僕自身が西尾維新の<物語>シリーズが好きで、そこでも似たような物が出てくる事もあって面白かった。

ただ疑問に思ったのは後半以降で、色々と展開が唐突過ぎるし、前半の何気ない日常からの温度差が凄い。妖怪などの伝承を記した『遠野物語』の舞台である岩手県の遠野を描きたかったのは分かるけど、主人公たちが遠野に着いて一晩経ったらすぐに元のマヨイガの場所に戻っていて掘り下げが薄いのか残念。だったら初めから遠野を舞台にした物語にすれば良いのでは?とも思ったけど、これは原作の問題かな?

あとは主人公ユイともう1人の女の子ひよりの葛藤→解決までの流れがなんともしっくり来ない。この2人は震災のほかに家庭の問題によって心に傷を負っているのだが、映画を最後まで観てみて、『それだけで前向きになれるの?』という疑問は拭えなかった。震災は現実に起きた悲劇だし、家庭のトラブルも現実的な問題なわけだけど、それを妖怪などのやり取りやいざこざというファンタジーな展開を経て、少しだけとは言え2人の『心の復興』としてしまうのはなんか違和感がある。現実で本当に震災で被災した人達の中には10年経った今でも心に傷が残っていて、それと戦っている人達も大勢いるんじゃないかな。

それと、東北地方の妖怪の伝承を映画として世に伝えようとする意義は分かるんだけど、妖怪たちやお地蔵さん達が当然のように人間の味方をしてくれるのも少し違和感がある。震災で傷ついた人達をお地蔵さん達が心配してくれている、というのは良い話だとは思うけど、妖怪って昔は沢山居たけど人間の社会が発達したことで住処を追われて、人間の前から消えてしまったんじゃなかったっけ?場合によっては妖怪は人間を恨んでいてもおかしくないと思う。そんな妖怪がみんな味方になってくれるのは、ちょっと虫が良いというか、人間本意の考え方だなと感じた。

あと細かい所だと、劇中流れる音楽は軽やかで良い曲が多いのだけれど、選曲チョイスを盛大に間違えているシーンが1箇所あった。ユイが過去のトラウマを思い出して泣き出してしまうシーンで何故かやたら明るめの音楽が流れてしまっていた。

ファンタジーを素直に受け取れないつまらない人間で申し訳ない🙏🏻震災とその復興というセンシティブな題材なので色々余計な事を考えてしまった。