マヒロ

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスのマヒロのレビュー・感想・評価

2.5
土星からの使者であるサン・ラーは、宇宙を旅し地球とよく似た理想的な惑星を発見する。同志である黒人達をその理想の星に連れて行くために地球にやってきたサン・ラーだったが、その技術を狙うNASAや、彼と敵対する謎の監視者がそれを妨害しようとする……と言うお話。

ミュージシャンであるサン・ラーが唱える哲学を元にしており、アフロ・フューチャリズムというSFと黒人文化が融合した独特の世界観のある作品。チープながらもイマジネーションに溢れた美術が魅力的で、ファラオみたいな格好をしたサン・ラーの衣装や金玉の裏側みたいな変な形の宇宙船など、既成概念に囚われてないのが良い。序盤にちょっとしか出てこなかったが、鏡のマスクをつけた人間のデザインが格好良かった。
あまり深く考えるものでもないのかもしれないが、ストーリーは正直何をやってるのか分かりづらいところがあり、特にサン・ラーと敵対する監視者たる男の存在が謎。高級スーツに身を包みギャンブルと女にどっぷり浸かった様は、黒人としてのソウルを失い資本主義に染まりきった人間の象徴なのかな、とか思ったが、詳しい説明があるわけでもないのではっきりとは分からない。優秀な黒人達を理想の場所へ連れて行こうとするのが目的みたいだが、わりかし優生思想じみている気もするし、ろくに説明もせず謎の場所に送られるのは結構怖い。演技らしい演技はせず終始仏頂面のサン・ラーも、超越者っぽいカリスマ性はあるが、何を考えているか分からない不気味さもあるので、本当にこの人信用して良いのかという気持ちは最後まで拭えなかった。

昔ながらのSFらしいイマジネーション勝負なところは楽しかったが、サン・ラーの語る世界にそこまで魅力を感じず、そこまでのめり込むことは出来なかったかな。彼のファンのための映画だと思う。

※余談
音楽家らしく彼の演奏シーンも長めに撮られているが、女性によるほぼ演説みたいな語りにフリー・ジャズ的なフリーダムな音を乗せていくような感じで、映画同様掴みどころがない音楽だった。
サン・ラーのことはほとんど知らなかったが、自分が唯一接点があったのが、プライマル・スクリームの『If They Move Kill'em』という曲をマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのフロントマンであるケヴィン・シールズがリミックスした『MBV Arkestra』という曲で、この「Arkestra」というのがサン・ラーの組んでいたバンドのことで、要はオマージュらしい。そう言われて聴き比べてみると確かにそれっぽい旋律があったりして、こんなところから影響を受けてたんだなという学びがあった。確かにメロディにこだわりすぎないノイズの洪水みたいな曲調は、マイブラとかのシューゲイザーに近いものがあるかもしれない。

(2022.210)
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