前方後円墳

Helplessの前方後円墳のレビュー・感想・評価

Helpless(1996年製作の映画)
3.0
『ユリイカ』、『サッド・ヴァケーション』と北九州3部作と呼ばれるの作品の1つ。
そのへんに落ちていた暴力をつい拾ってしまったというような作品で、開放されたカオスの連鎖反応を見ることができる。
父の自殺をきっかけに、白石健次(浅野忠信)の行き場のない暴力性が爆発する、静かで恐ろしい物語だ。もちろん健次だけでなく、ヤクザの松村安男(光石研)や他の人たちもどちらかというと衝動的に暴力的な行動を取り、行き場のない自分たちから逃げられないでいるのだ。日常に潜む人間の暴力性を健次という媒体を借りて表現している。そして、「Help Me」と書かれ、ミイラ化した自分の腕を持ち歩く安男も暴力の象徴として存在するが、その奥底で助けを求めていることを表現している。
その対比として、安男の妹である松村ユリ(辻香緒里)だけが一人、暴力から離れた位置でうさぎの世話をしている。だからこそ、健次も安男も彼女を守ろうとするのだろう。そして安男がユリを撃とうとした時点で安男はどうしようもないと諦めてしまったのだろう。どこからも逃れられないことを悟ってしまったとき、"死"が存在するかのような感じで描かれるのだ。
ラストシーンで安男が車に乗り、歩く健次とユリを追い越していく、その表情はどこか決意というよりも助けられないということを知ってしまい固まってしまったかのような怖い顔をしている。
そして、助けることも助けられることもできなかった健次の物語は『サッドヴァケイション』に続く。