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クラッシュ 4K無修正版のLudovicoMedのレビュー・感想・評価

クラッシュ 4K無修正版(1996年製作の映画)
4.1
午前十時の映画祭では流せない、クローネンバーグ変態映画。

先日、午前十時の映画祭が復活という朗報がありましたが、シネコンではとてもじゃないが捌けないデヴィッドクローネンバーグ渾身の一作がミニシアターに降臨しました。

フランスの映画雑誌カイエドゥシネマが年間ベストに挙げ、スコセッシがゴリ押しのクローネンバーグ性癖世界が4Kで、もちろんボカシなしの最高級なクラッシュをキメてきました。

クローネンバーグといえば人体とメカの合体。それも妙に哲学チックな感触で魅せるので、正気で鑑賞する者をポカーンとさせることが多い。本作では交通事故に新手のエクスタシーが覚醒していき、やがて通常のセックスに物足りなさを感じる欲望を捉える。この通常の感覚には戻れなくなるモヤモヤを死と隣り合わせな絶頂と対比させる性欲事情を徹底解剖していくのです。

この原作者JGバラードは外宇宙よりも"内宇宙"の考察に取り憑かれた作家ですが、なんと主役をジェームズバラードと名付けたのだ。
そしてギャスパーノエが『2001年宇宙の旅』に対し、性行為によりスターチャイルド(赤ちゃん)という神秘の存在へと目を向けた『エンターザボイド』の様に、内宇宙とセックスという思想は切っても切り離せないものであったと本作ともに提唱されていたのです。

オープニングのクレジット文字が歪んだナンバープレートの様な文字で走ってくるタイトルバックからクローネンバーグの世界に引き摺り込まれる。

そしてとある自動車事故の経験を経た者同士がグチャグチャの廃車の中でセックスを行ない、感じたことのない悦楽に取り憑かれる。単に事故の"衝撃"だけで人体損失M性癖に目覚めるのでなく、新たな悦楽の扉が開かれゆく過程をジワジワと浮かび上げていく。
そして交通事故マニアの仕事場で目にした、自動車衝突の記録映像を目にした時、とんでもない性的興奮を得るのだ。まるで新手のAVにのめり込む様に、男は女の、女は男の股間をイジり快感を味わう。

やがて、彼らは交通事故マニアの男と行動を共にし、洗車中の車内でプレイしたりと更なる絶頂を追い求める。

一方で、その狭間には通常のベッドプレイも長いカットで行うのだが、中々絶頂には到達しない。もはや機械的な感触がなければ、かつての快感に帰還できなくなったのか?とも思える心理が長く大胆なセックスシーンから見えてきます。

そして彼らは、まさしく死のエクスタシーへと挑戦していくのだ。

また、本作はもちろんのことだが不謹慎極まりない行動の連続だ。そもそも主人公のセックス依存症っぷりから、交通事故で相手のドライバーを殺している件、今の時代にはそぐわなさすぎる女性の扱いなどあるが、物語には支障なさそうなこの背景こそが実は重要に感じる。
通常のモラルは捨て去ったアブノーマルさを秘めた人物だからこそ、この異常すぎる性の目覚めは際立つのだ。
全編貫く無機質なアルペジオのBGMが、通常の感覚とは違う特異な心情を宣言するかの様に。

そして映画館を出ると、夜がいつもより暗く見えるほどに、クローネンバーグの悪夢に包まれました。
これは滅多にない映画体験だった。
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