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クラッシュ 4K無修正版の匠のレビュー・感想・評価

クラッシュ 4K無修正版(1996年製作の映画)
4.0
エロティシズムを描写するにあたって、カー・クラッシュをモチーフとしたのは、たしかに非常に鮮やかなやり方だと思う。作家であり、哲学者でもあったジョルジュ・バタイユの言葉を借りれば、エロティシズムの在処は“規律型の日常から無規律的な非日常性へと揺らぎながらハミ出ることの往復”にある。この‘越境’(あるいは‘破境’)の美学は本作にも認められるだろう。酷く規律的なものとしての交通ルールと、それを乱暴な運転や凄惨な事故というかたちで破ることへのエロティシズム。そうしたカー・クラッシュによる破壊、傷、怪我もやはりエロティックな‘越境’の表象である。機能的で美的な造形をもつ車が一瞬のうちに無意味な鉄塊へと変貌するということは、車が規律性から無規律性へ‘越境’するということであり、また、人体における傷や怪我は生という此岸から死という彼岸に近づくという‘越境’の象徴である。(性的絶頂をイくとかクるとか表現するのも‘越境’の感覚と言えるだろう)それは“存在の輪郭が曖昧になること”も意味している。車や人間(自分)という日常的かつ規律的な存在が保守している輪郭がその外側、無規律へとブレること。日常性(機能・健康)が輪郭を失い、非日常性(破壊・死)へとハミ出ていく過程には確かなエロティシズムがあるということを本作は映像作品として示してくれている。
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