マンボー

タネは誰のもののマンボーのレビュー・感想・評価

タネは誰のもの(2020年製作の映画)
3.6
2018年に戦後以降、都道府県、JA、農業試験場が農業で使う種子の品質を保ち、国が予算を付けて、農家に種子を分配する方式の種子法が廃止された。

そして、種苗法がとって変わり、このほど改正されようとしているが、この種苗法の改正には問題があるように見える。

種苗法の改正は、基本は新たな品種を生み出した発明者や、育苗者の権利を守り、海外などへの無許可での持ち出しを防ぐ目的がある。ところが、自家増殖を禁ずる条項もあるので、発明者や育苗者が権利を企業に譲渡して、企業が利益を追求した場合、農家は高価で質の良くない種苗を買い取らなければならない状況に陥る懸念があり、実際に世界的には以前からそんな状況が生まれている。

農家に説明をする農水省の面々は、花形省庁から外れているだけに志を持って入省した方も多く、国内の農家を守りたいと思っている方も多いのだが、立法府は国会で、政治家は企業の意向に従いやすい傾向があり、もちろんそこには企業と政治家の利権も存在している。このままでは、一般の農家がグローバル企業の食い物にされ、この国の農業が廃れかねないと示唆される展開。

民主党時代の農水大臣、山田正彦氏がかつての古巣に立ちふさがって、この国の農政の経緯、農家の声、予想される事態を丁寧に積み上げて説明してゆくドキュメンタリー。

様々な職業、仕事があるけれど、その根幹をなすのは衣食住で、中でも食を支える農業は、国家の危難にあって欠くべからざる、本来もっとも優先され守られるべき職業ではあるが、貿易が盛んになり、より安い食糧の輸入ができ、割合平和が続く日本ではどうしても軽んじられる傾向もあって、それに乗じて企業や政治家につけ込まれかねず、そんな状況をやさしくも鋭くまっとうな視点で見つめ、声高ではなく訴える点に好感。農業に特化したドキュメンタリーで、観客を選ぶ内容だが、この国の国民である以上、必ず最後には個人に関わってくるテーマに違いなく、現状を知り、問題意識を持ち得るよい機会になったと思う。