平野レミゼラブル

イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.0
【秘密という蜜の味は世界の黒幕をも生み出した…】
ワンデーシネマパスチャレンジ次鋒。アメリカ合衆国誕生の裏側にあったとも言われる秘密結社「フリーメイソン」…その更に裏側にいる秘密結社こそ『イルミナティ』です。そのような出自のため時に「世界を牛耳る黒幕」とも、「人類の真の支配者」とも、「世界滅亡を司る悪魔の組織」とも噂される…そんな組織の実像を描いた禁断のドキュメンタリーです。
元々こういうオカルト系統は大好きではあるんですが、まあわざわざ金払って映画観ようとまでは行かず。そういう意味では、こういう合間時間に実質無料くらいの勢いで観るってのが一番良いなァと思っての観賞です。まあ、結論から言うと、本当に合間時間を巧いこと潰せて良かったです。

世界の黒幕たる秘密結社の秘密を暴くドキュメンタリーということもあり、ポスターには「観ると、消される!」という煽情的なキャッチコピーが踊ります。その為、僕も合間時間を潰すなんて軽い気持ちで観てしまったわけですが、そのことを今後悔するくらいの恐怖に駆られています…クソ!『真・鮫島事件』を観て知ってしまったあの「真実」からは何とか逃げ切れたのに……!ああ、またアイツらが……!アイツらが……!!



でもちょっとよく考えてもみてください。秘密結社の「秘密」を暴いて映画にしている時点で、その秘密結社は秘密結社として成り立ってないんですよ。そして実際映画の内容は、多くのフリーメイソンやイルミナティ研究家の研究成果を元に秘密結社の化けの皮を剥いでいくというものになっています。

イルミナティの起源は1776年。ドイツの修道士であるアダム・ヴァイスハウプトが、当時力を持っていたイエズス会の権力を嫌って結成した団体です。「世界をより良くすること」を大目標としており、そのためにまず自分自身を高めることを求めたため、今でいう自己啓発セミナーみたいな側面もあったのでしょう。
弾圧するイエズス会から隠れるために秘密主義を取っており、結社内の情報も徹底した情報統制が成されている。また、階級制を導入しているのですが、階級が上がらなければ知り得ない情報があるなど、「秘密」を小出しにして射幸心を煽る手法は人間心理を中々巧くついています。

階級制はフリーメイソンの模倣で、下位グループが「ミネルヴァ級」、上位グループが「メイガスト(魔術師)級」なのですが、中位グループが「フリーメイソン級」なのが興味深い。何故、参考にした結社の名前を冠する階級があるのかというと、この階級の役割と言うのが「フリーメイソンへのスパイ」だからです。

創設者のヴァイスハウプトは大学で教授を務める程に知識はあるものの、組織の経営手腕というものはなかった。そのため、結社は中々勢力を伸ばすことができませんでした。そこで立ち上がったのが、彼のブレインであるアドルフ・クニッゲ男爵。彼は位階制度を整え、「フリーメイソン級」に達した会員をフリーメイソンに潜り込ませた上で、フリーメイソンの大物人物を引き込ませる役割を担わせたのです。
フリーメイソン会員も、秘密結社内で他の会員が知り得ない知識を得ることができるというのは魅力的だったようで続々イルミナティにも入会。イルミナティの最高位階をフリーメイソンの上にちゃっかり据えているのもよく考えられています。これで皆、フリーメイソンにも在席しながらイルミナティの最高位を目指すようになってしまう。
クニッゲ男爵は「秘密」を餌にして人を誘き寄せ、「秘密」を盾に人知れず勢力を拡大していたわけで、彼は誰よりも「秘密という蜜の味」を知り尽くした人物だったのでしょう。

仕組み自体は実に見事なんですが、ただこうやっていることをまとめると、「他の組織にタダ乗りして勢力を拡大させた」ってわけでかなりセコい感じです。
実際、イエズス会はもちろん、黄金薔薇十字といった他の秘密結社にすら苦々しく思われていたらしく、組織は終始バッシングを受け続けます。それでも「秘密」を武器に勢力拡大を目論みましたが、カール・テオドール選帝侯がイエズス会の権力を握り、秘密結社禁止の令を出してしまったことで一気に衰退。その頃にはもう創設者のヴァイスハウプトと、ブレインのクニッゲ男爵の間にも結社の在り方を巡って亀裂が生じていたこともあり、ヴァイスハウプトの亡命によってイルミナティは自然消滅します。存在期間はわずか9年。あまりに短命な秘密結社として歴史の流れに埋もれていく……筈でした。

ここに来て徹底的な「秘密主義」が猛威を振るうことになる。イルミナティは秘密の中で発展し、秘密の内に力を持っていってしまったため、その実態があやふやなままでその後の歴史の流れに紐づけられるようになってしまった。
秘密故に人々の興味を煽り、
秘密故に陰謀論と結び付けられ、
秘密故に誰もそのことを否定することができない。

こうしてあらぬ尾ひれをつけられまくったイルミナティは、「世界を良くする秘密結社」から「世界を牛耳る悪の秘密結社」へと変貌を遂げてしまった…というのはあまりに皮肉。
何より恐ろしいのはこのようにイルミナティの全貌が明らかになった(秘密とはいえ、弟子に教えるためのテキストは大量に残っていた為、研究は容易に進んだとか)今でも、イルミナティを悪意の受け皿にしてしまっている人がいるということ。
現在世界を脅かしている新型コロナウイルスも、あの大国で行われている政治の全ても、かの有名人の急死の真実も、「全てイルミナティの仕業」として処理してしまう人達がいる。その短絡的な結びつけこそ、情報社会たる現在の世界を支配している黒幕の正体ではないでしょうか……

と、結構興味深く観ることは出来たものの、本当に合間時間を潰す以上の目的には成り得ない感じではあったかな……
というか、この映画の構造ってNHKでやっているオカルトドキュメンタリー『幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー』っぽいんですよね。既に栗山千明とジョージおじさまによって解き明かされていそう。というワケで、まあ深くはオススメしないものの、キャッチコピーの「観ると、消される!」なんてことは全然ないため、興味あって時間潰す時には是非。