幽斎

スペルの幽斎のレビュー・感想・評価

スペル(2020年製作の映画)
3.8
【アウトライン】主人公マーキスは飛行機で父の葬儀の為、アパラチアへ家族と飛び立ったが猛烈な嵐に襲われ、墜落してしまう。目覚めると屋根裏部屋に閉じ込められた。家人エロイーズはマーキスの血液と皮膚から作ったフードゥ呪術の人形を使い、彼を回復させると言う。逃れようとするマーキスだが、家族にも危機が迫る・・・。

メジャースタジオParamountで劇場公開する前にMPAの審査で「R」指定を受け、重役会議が紛糾。再編集してレーティングを下げる様プロデューサーKurt Wimmerと交渉する最中、中国ウイルスがアメリカ本土に押し寄せる気配を見せた為、2020年サマーシーズンに急遽公開したが、パラマウントの予想を上回る感染者の増加で大都市で劇場のクローズが相次ぎ、ハロウィンで稼ぎたいスタジオは自社配信パラマウント・プレーヤーズに切り替え10月30日にリリース。Blu-rayに再編集の未公開映像を収録。

ホラー映画に詳しい方ならご存じだろうが、ホラーとパラマウントは相性が良くない。ホラーは低予算で稼げる利益率の高いジャンルだが、立場的には最下層に近い。ホラーをスリラーと言い直すと会議の審査に通り易い、と言う笑えない話まで有る。真にホラーに理解の有るのは祖業で有るUniversalだけ、Disneyの様に全く作らないスタジオも(稀に例外有)。配信を観ながら「ソニーに任せてくれたら」と思う点が多々有った。トリヴィアだがパラマウントベッドとParamountは全く関係ないが、当時の木村寝台工業の社長が「映画の様に夢を与える」と言う意味で社名変更。本作の主人公は大半をベッドで過ごす。

基本的にはKathy Batesがオスカー主演女優賞を受賞した「ミザリー」のリライト。その年はAnjelica Huston、Julia Roberts、Meryl Streep、Joanne Woodward錚々たるメンバーを抑えての受賞。ホラー・ファンには忘れられない作品。プロットはSam Raimi監督「スペル」の模倣、と言うより随所にオマージュを感じさせる演出が散見される。因みに「スペル」の原題は「DRAG ME TO HELL」、本作は「SPELL」直接の因果関係は無い。

本作の主導権は冒頭で紹介したカート・ウィマー、と言えばChristian Bale本人も大のお気に入り「リベリオン」拳銃アクションに日本の近接格闘を取り入れたGUN-KATA「ガンカタ」で一世を風靡した。この作品を見て衝撃を受け、私が一番好きな俳優Keanu Reevesが後に作ったのが「ジョン・ウィック」シリーズと本人も認めてる。ジャンル違いだが未見の方は是非ご覧頂きたい、超低予算だが歌舞伎のエッセンスまで感じられる傑作。

ドイツ生まれのカート・ウィマーの経歴は長く「リベリオン」以降は脚本家としてハリウッドで一定の地位を築いてる。Al Pacino「リクルート」Milla Jovovich「ウルトラヴァイオレット」「フェイクシティある男のルール」Keanu Reevesとタッグ。Gerard Butler「完全なる報復」Angelina Jolie「ソルト」Colin Farrell「トータル・リコール」本作と同時に過去の名作「Children of the Corn」リメイクで監督にも復帰。本作は脚本も務めた彼の持ち込み企画。問題なのはパラマウントが決めた監督の人選。

Mark Tonderai監督は「監禁ハイウェイ」ハリウッド・デビュー。B級感満点ですが意外と良く出来たスリラー。続く「ボディ・ハント」Jennifer Lawrence主演と言う強運に恵まれる。その後は儲かるHulu「12モンキーズ」、ソニー系AXN「GOTHAM/ゴッサム」。しかし映画に復帰した「死霊のえじきBloodline」大きく評価を下げた。本作もカート・ウィマーの用意したプロットの何れをザッピングするのか監督のプランが見えないので、冒頭の念入りな伏線も呪文を唱える段階で四分五裂してる。グロよりも痛いシーンの連続、そりぁアメリカで「R」指定を喰らう訳だ「ミザリー」が作られて30年が過ぎたが、痛さのインフレ率も凄まじく、しばらく「釘」も見たくない、あんな長い釘カインズに売ってます?"笑"。

配信を観てる時はフードゥ呪術をブードゥー教と思って観たが、違和感を感じたので呪術に詳しい友人に聞いたら、ブードゥー教は中南米ハイチ起原だが、Hoodooは北アメリカのアフリカ奴隷に齎された信仰で、主人公が墜落した国境地帯も布教が盛んらしい。アメリカで「root working」と呼ばれるリングシャウトや召喚者の神など、ブードゥー教と似てる部分も有るが全くの別モノ、カード占い位しか知られなかったフードゥが映画のネタに為る事に驚いてた、因みに彼は京都の某宗派の僧侶ですので怪しい人では有りません。

主人公が黒人の富裕層、ハリウッドらしく今風で悪くない。カート・ウィマーの世界観はフードゥ呪術の新たなスパイスを振り掛けた、モダンなオカルト・スリラー。「ヘレディタリー/継承」を観て刺激を受けたのは間違いない。南アフリカで撮影されB級感も無くヴィジュアルや音楽も悪くない。宗教観に中立なソニーなら、もっと呪いのアレンジにも工夫が有ったかも。犠牲者が●な点は釈然とせず、スリラー目線なのでオチも納得せず3.8としたが、ホラー好きなら4.0もアリ。ポテンシャルは良いので劇場未公開と侮る勿れ。

気の弱い方は失神する最高レベルの痛覚に悶絶。ホラー好きなら見逃す訳には逝かない。
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