平野レミゼラブル

共謀家族の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

共謀家族(2019年製作の映画)
3.4
【家族の為の完全犯罪】
小学校中退で学こそないものの「映画で全てを学んだ!」と豪語する映画マニアの父親が、やむを得ぬ事情で殺人を犯してしまった娘と妻を守護るために完全犯罪に挑むミステリ仕立てのクライム・サスペンス。インド映画『ビジョン』の中国リメイク作品であり、『ビジョン』の方は前々から観たかった作品ではありましたが、結局リメイク版から観ることとなりました。
ただ、各種感想見るに割と忠実にリメイクしていった感じなんですかね?作品で重要になってくるのが仏教思想らしく、それはインドの手から離れたで本作でも共通。主人公のリーは慎ましい生活の中でも寺院への寄進を怠らない熱心な仏教徒であり、犯罪を犯すにあたって彼は初めて仏様に頼らず(頼れず)、自分一人の発想と家族の協力を得て奔走するのです。
中国映画でありながら舞台がタイなのも、このブッディズム精神を自然にするためでしょう。要所要所で舞台となる寺院がリーの罪や心情を象徴的に映します。ただ、劇中の警察がかなりの勢いで腐敗しているため、舞台を中国本土にすると色々きな臭い問題も発生するんだろうな…ってのも同時に察せられるのは何とも言えない感じですね……


ミステリとしては凄くシンプルで、犯人視点でのハウダニット(どうやって犯罪を隠蔽したのか?)となっています。
リーの犯行は娘と妻が殺してしまった男の遺体隠蔽(証拠隠滅)であり、使用するトリックは死亡推定時刻に家族全員が犯行不可能だと偽装するアリバイ工作です。基本的にリー視点で犯行が行われますが、トリックの要の部分は意図的に伏せられて話が進むため、実際に観賞者も推理しながら話を追うことが出来ます。
肝になってくるのが、既に殺人が起きた後にアリバイ工作が行われていることでして、リーの行動のほとんどに疑問符が浮かぶかと思います。そのため、解答編となった時に不可解に思えた行動全てに綺麗に説明がつくようになるのがかなり鮮やか。


とは言え、本作のトリックは結構オーソドックスなモノなので、気付ける人は簡単に気付けるとは思うんですけどね。
実際、リーが過去に観た映画のトリックをアレンジしたモノなので、作中に出てくる作品を観ている人ならば余裕でわかってしまうやも(作中でリーが観賞しているのが『ショーシャンクの空に』、『偽りなき者』、『セブン』、『悪魔は誰だ』、『バッド・ジーニアス』、『白夜行(韓国ver)』、『情婦』)。
僕もリーの観ていた作品はほとんど観てなかったんですが、それとは別の作品で似たようなトリックがあったので、そっち由来で解くことが出来ましたし。


とは言え、本作におけるトリックはあくまでオマケで、実際に見所となるのは家族総出で犯罪隠蔽を行うというスリリングなサスペンス部分です。
証拠となる車を捨てる際に監視カメラや検問に振り回され、目撃者が出てしまうかもしれないギリギリの綱渡りをするリーの姿にハラハラ。目撃者の暗喩に、視野が広く50m先の人間の顔すら見分ける「悪魔の眼」を持つヤギを出してくるのも効果的でしたね。
計画立案者たるリーはともかく、彼の指示に従うだけの家族が取り調べを受けるシーンなんかはそれに勝るドキドキでして、特に幼い末娘が余計なことを言い出さないか心配になります。警察側の予期せぬ方向から飛び出る誘導尋問に怯えながらも、細やかな部分までフォローして躱せるリーの脚本の完成度に舌を巻きます。

また、そんなリーを執拗に追い詰めるのが、事件の被害者の母でもある警察署長のラーウェン。「年間1000の映画を観ていれば、この世にわからないものはない!」と断言するリーに対して、「事件を1000も調べれば、この世で解決しない事件はない!」と断言する理論派の名探偵役であり、この2人の頭脳戦としても見応えがあります。
なお、リーの娘は修学旅行中にラーウェンの息子に薬を盛られて犯されており、その様子を撮影した動画で脅されていたため、動画を消そうと揉みあう内に誤って殺害してしまった……というのが殺人事件の真相であり、ラーウェン側は普段から警察権力を使って息子の不祥事を消していた事実があるため、観賞者の心情は俄然リー一家側に寄ります。
息子とラーウェン(あとリーを敵視する不良警官)の横暴っぷりはあまりにアレすぎて胸糞悪くなるレベルなので、手放しでリー一家の殺人隠蔽を応援できるって寸法です。

全体的にシンプルかつオーソドックスな本格推理モノで素直に面白いんだけど、ただ既視感と小粒感についてはちょっと否めない部分もあるかな。殺害シーンとムエタイの試合をモンタージュする演出など、魅せ方は結構凝っているし色々とトリックにも絡んでくるから飽きはしないんだけどね。
ただ、いくら正当性があるとは言え、家族の犯した罪を隠すために罪を重ねる内容である以上、後味はどうしてもモヤッとしてしまう。いや、それ自体は承知の上なんだけど、それはそれとして納得いかない部分もあるのでイマイチ釈然としなくもあるかな……この釈然としない部分は物語の結末というより、実はトリックの真相部分にあって、そこら辺はネタバレになるのでコメント欄で……