MasaichiYaguchi

彼女来来のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

彼女来来(2021年製作の映画)
3.9
演劇ユニット「ピンク・リバティ」の代表で、劇作家・演出家の山西竜矢さんのオリジナル脚本による長編デビュー作は、突然、同居していた恋人が入れ替わるという不条理に見舞われた男の日々を映し出していく。
キャスティング会社で働く30歳の佐田紀夫には交際3年目になる田辺茉莉という恋人がいる。
ある夏の日の夕方、会社から帰宅すると茉莉の姿はなく、代わりにマリと名乗る見知らぬ若い女がいた。
ここから最愛の恋人が失踪し、素性の知れない、押し掛け恋人のようなもう一人のマリとのギクシャクとした主人公の日々が始まる。
主人公の置かれた状況は不条理だが、恋人やパートナーが突然去ることは決して現実離れしたことではない。
長年連れ添うパートナーについて、その気持ちや抱いている思いを人はどれ程までに汲み取れていると言えるだろうか?
自覚していないだけで相手を傷付けていることもあるし、人は心変わりするものでもある。
本作では顔のクローズアップが何度も出てくるが、見慣れた顔でも髪型や化粧、眼鏡やマスクをしていると〝認証〟出来ない時がある。
主人公の紀夫も入れ替わった新たなマリを〝認証〟出来ず、必死に茉莉の行方を探すのだが…
「去る者は追わず、来る者は拒まず」と言うように、時間の経過によって去られた心の痛みは薄れ、その傷は別のもので癒される。
一見、本作は不条理劇のようでいて、描かれたドラマは我々の日常と地続きなような気がする。