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マ・レイニーのブラックボトムのdaiyuukiのレビュー・感想・評価

4.7
1927年のシカゴ。野心家のトランペッター、レヴィー(チャドウィック・ボーズマン)が所属するバンドは「ブルースの母」と呼ばれた伝説的歌手、マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)のレコーディングに参加した。
レコーディングが進むにつれて、マ・レイニーは勝手にレヴィーのアレンジを採用するなどした白人のマネジャーやプロデューサーと激しく衝突するようになり、スタジオ内がピリピリとした雰囲気になった。
揉め事やトラブルが発生するたび、レヴィーたちはリハーサル用の部屋で待機を命じられた。待機中、レヴィーは自らの思いを他のメンバーに吐露し始めたが、それをきっかけにバンドの運命が大きく変わることになった。
同名の戯曲の映画化。
「レコーディング前にキンキンに冷えたコーラが飲みたい」「自分の甥に曲を演奏する前の口上を言わせるから、ちゃんと報酬を渡せ」「アレンジやレコーディングは自分の意思を尊重しろ」など白人のマネージャーやプロデューサーに臆せず自分の意思や要求を主張するマ・レイニー。
白人のマネージャーやプロデューサーの意見に妥協して受け入れつつ、自分の才能や野心に忠実に白人を上手く利用してのし上がろうとするレヴィー。
一見対照的に見えるが、スターであろうと一介のミュージシャンだろうと、ギャラや経費や印税などをケチって上手く黒人ミュージシャンやアーティストを搾取する音楽業界で自分の権利や自由を守るために戦っているという点では同じ。
また、「黒人は楽しく生きていければいい」「豚一匹白人が食っているのに黒人はもも焼き一本で満足しろって言うのか」というレヴィーと「黒人も楽しむ以外の有意義な生き方をしなければならない」「近頃の黒人は欲しがり過ぎだ」というマ・レイニーのバックバンドのメンバーの、世代間の価値観の対立。
人種差別が未だ残ってる過渡期の音楽業界を舞台にした音楽映画でヒューマンドラマが、上手く描かれている。
この映画が遺作となったチャドウィック・ボーズマンは、大腸ガンの末期で化学治療を受けながら、楽器の演奏など吹き替えなしでも演じられるほどの完璧な役作りをして、中盤でチャド演じるレヴィーが自らの辛い過去や思いを激白するシーンは、共演した俳優陣だけでなく監督も感動させる渾身の演技を披露した。
過渡期の音楽業界の裏側を生々しく描いた音楽ヒューマンドラマ映画。
「ブルースは、人生を語る手段だ」
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