フィンランド北部の小さな村ポホヤンヨキ(Pohjanjoki たぶん架空の村)に中国人の料理人チェンが息子とともに人探しにやって来る。フォントロンという人物がこの村に居るらしい。食堂のオーナーのシルカはフォントロン探しを手伝う代わりにチェンに料理を作ってくれるように依頼する。チェンの料理は次第に評判を呼び、食堂は賑わい始めるが・・・
監督のミカ・カウリスマキはアキ・カウリスマキの兄とのこと。
どちらも微妙に緩い雰囲気にどことなく可笑しい登場人物たちが登場しますが、こちらの方は弟よりもずっと普通っぽい映画。
登場人物たちはみな善良そうで、それぞれのキャラクター像もメリハリ充分。
生真面目そうで腕の立つ料理人のチェンにはどこか隠し事があるらしく、人探しの顛末やチェンの謎が次第に明らかになっていく過程はまさに王道の展開ですが、まったく不安げにならずに物語に引き込まれていくところは、この映画の大きな美点。
常連の爺たちが未経験の中国料理に魅了されていくところや、シルカがチェンと打ち解けていくところなど、定石を外さない展開がマンネリ感を持たせずごく自然に展開されていく物語運びは、この映画の根っこに人の営みへの温かい眼差しが通い続けているからではないか、と感じます。
シルカの店に故障したバスの中国人観光客が大挙して押し寄せるところは、ともするとすぐにインバウンドだの爆買いだのに象徴される節操のなさが嫌味を帯びて描かれがちなところですが、不思議とそうした嫌味を殆ど感じないのがこの映画らしいところ。
そうした世俗の雑事を遠ざけて、「美味しい料理は人を幸せにする」というチェンの言葉通りに人の善良さを描こうとする姿勢は、この物語が徹底的に寓話めいた展開であるからこそ、素直に受け入れることができるのでしょう。
3月末で期限切れとなる無料鑑賞分の消化に、眉間にシワを寄せて観るような映画ではなく、年度末のちょっとヒマな時間に映画を観て過ごしたい、という需要に上手く嵌ったという、ある意味で特需と呼べる動員にちょっと驚いたりもしましたが、なるほど、これは人が集まるのも無理はない、と思わせる作品でありました。