岡田拓朗

BLUE/ブルーの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
4.5
BLUE/ブルー

現時点では2021年ベスト!

誠実さから築き上げられるそれぞれの互いを認め合う関係性と徹底したリアリティ溢れる描写からなる物語が素晴らしく、じんわりと感動が押し寄せてくる(大人向け)青春映画の傑作。
派手さはないが、それをものともしないくらいにしっかりと地に足がついていて、その良質さが際立っている。
個人的に同様のジャンルの中の金字塔だと思ってるくらいに好きな傑作『ソラニン』と同等、もしくはそれ以上に好きな作品だったかもしれない。

タイトルの『BLUE/ブルー』には色んな意味や想い、感情が込められていると感じた。
敗北を表すブルー、青春を表すブルー、哀しみを表すブルー、誠実さを表すブルー、青コーナーを表すブルー、そして最も色濃く軸として描かれていた挑み続ける挑戦を表すブルー。
様々なブルーが起点になって物語が進んでいっていて、そんなシンプルイズザベストでこれ以上ないタイトルが渋い。

瓜田、小川、千佳のお互いを想い合う関係性の中で、恋愛や友情、才能の有無によるどうすることもできない憧れと嫉妬からくる葛藤が静かに渦巻いていく。

瓜田の人柄によって、それはなかなか表には出ないが、内には溜まっていってる嫉妬や羨望があって、それがあるシーンに少しだけ吐露されるのがとても切ない。
普段見せる顔とのギャップ、でもそれもちゃんと自分の中で理解しているから、それまでは抑えていた。
どれだけ何かを言われても、どんな状況になっても怒らない彼の度量と生き様が静かに光る。

強さを勝ち負けだけに落とし込まず、内面の心の部分に落とし込んでいく点もよくて、そこに瓜田(のような人)への愛を感じた。

見てる人はちゃんと見てる。
瓜田のような優しくて根っからの良い奴がちゃんと感謝されて、誰かの心にずっと残り続ける。
それだけでもう涙が止まらない。

負けてばっかりと言われても、怒りや哀しさを表に出さず、静かに周りを支えていく瓜田のような人は、現実世界では日が当たることは少ないだろうが、そこにスポットを当てられるのが映画の醍醐味でもあり、映画だからこそできるそういう人たちへの救いでもあるように感じた。

そんな瓜田の存在を際立たせながら、さらに作品に深みを与えていったのが小川と千佳、そして楢崎の存在と描かれ方である。

小川は才能を持つ者として描かれていて、瓜田に対しての情を忘れない人柄のよさもある。
だからこそ瓜田は彼を羨望していても、憎むことや恨むことはできないし、さらにボクシングを辞めることもできない、それらを踏まえての葛藤が彼を悩ませる部分にもなっている。

瓜田と小川の間に千佳がいることで、恋愛や友情の中に渦巻かれるボクシングとは異なる観点での葛藤も生み、持つ者と持たざる者が存在する現実が大人の青春として描かれていた。

さらに小川にも予期せぬ試練があって、そこにもまた重たい現実がのしかかる。
それでもそれぞれの関係性があるからこそ、前向きに挑戦者として生き続けられる希望のある展開なのがまたよかった。

どうにもならなくても好きなものに対する情熱は消えなくて、挑戦はやめられない。
それしかない者たちが邂逅し、必死にもがき続けていく生き様にはグッとくるものがあった。

そして、楢崎がいることできっかけは何でも本気でやってみることで、人は変わり、予期しなかった歩みたい人生を歩むことにも繋がる可能性があることも示唆される。

必ずしも一番になる人生だけが全てではない。
それぞれに続ける理由があればよくて、その理由はそれしかないからでも、それが好きであるからでも、熱量を抑えられないからでも、何でもいいじゃないかと。

107分の短い尺の中に、色んな関係性や挑戦し続けるからこその人の変化、葛藤を傍観の視点で静かに描き上げ、それでいて挑戦を応援していく視点を忘れない素晴らしい映画だった。

P.S.
𠮷田恵輔監督の安定感が際立っていて、キャストもよかった。
献身的に相手を支え、三角関係の間にいる女性が右に出る者がいないくらい様になりすぎる木村文乃さん、絶妙なダサさが様になりながらも徐々に顔つきや生き様が変わっていく成長の再現性も完璧な柄本時生さんももちろんよかったけど、特に松山ケンイチさんと東出昌大さんがこの作品の世界観と役柄にハマりまくっていてとてもよかった。
松山ケンイチさんは表に出てる優しさの中に抱える葛藤や感情の出し入れが本当に凄くて、東出昌大さんは『寝ても覚めても』や『スパイの妻』のときにも思ったけど、役者として彼にしか出せない独特の味や鬼気迫る雰囲気があって、それが役とハマったときに出る作品を底上げする力が凄い!
岡田拓朗

岡田拓朗