マンボー

BLUE/ブルーのマンボーのレビュー・感想・評価

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
4.0
ボクシングには華やかに見える瞬間がある。でもそれはごく一部の天才ボクサーを除いて、ほんの一瞬のことでしかない。

そんなボクシングの、影にあたる部分をしっかりと描き抜いているところがよい。勝てないボクサーのみじめさ、パンチドランカーの症状を抱えて生きてゆく過酷さ、一人で粛々とトレーニングに励み、たとえ体調が悪くても丸腰でリングに立つ孤独、よくぞここまでと思うほどリアルで説得力のある描写の連続が無性に心地よかった。

ボクシングというと、どうしても坂道を駆け上がる物語が脚光を浴びてきた。ロッキーにマイク・タイソン、大場政夫や辰吉丈一郎、あしたのジョー、ろくでなしブルース、でも現実は志が果たせず、日本ランキングにさえ名前を載せられずにリングを去りゆく選手の方が圧倒的に多い。そんな現実を、日本チャンピオンにあと一歩まで迫る同じジムの友人と対比させて、丁寧にエピソードを重ねて描いてゆく。

一点だけ問題があるとすれば、ボクシングのことを本当によく知っているが、パンチ力がなくて、さらに打たれ弱いのか、ほとんど勝てず盛りの過ぎた万年4回戦ボーイの主人公を演じる松山ケンイチの、身体のしぼり方、身のこなしに体捌き、動きのキレが抜きん出て良すぎて、勝てないボクサーを演じた説得力に乏しいことぐらいだろうか。

高校生の頃に毎月ボクシングマガジンを買い求め、隅々まで読み込んでいた自分としては本当に面白かった。遠くから見れば日陰の青春かもしれないけれど、クローズアップで迫れば、顔ににじむ汗も見えるし、変わらないように見えた表情の奥の、本当の想いもにじみ出す。

負け犬でかませ犬で引き立て役、誰からも顧みられないかもしれないけれど、ボクシングに魅入られてくたびれもうけの過酷で残酷、物質的には何も手に入らないむなしい青春のリアル、それでも真摯にボクシングに向き合い続ける姿勢とその存在感の余韻に焦点を当てて切り取ってみせたその志に、あの日のボクシング熱が蒸し出されたかのようによみがえり、強い好感と共感の波が今や乾きかけた胸に押し寄せた。