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海辺の金魚のoguchiのレビュー・感想・評価

海辺の金魚(2021年製作の映画)
1.8
コロナ禍あたりに公開された映画、俳優が監督した作品が結構あった印象で(配信も含め)これも俳優の小川紗良の初長編映画というふれこみ。

俳優が監督する際、観客の方も新しいものを期待する気持ちがあると思う。俳優本人が邦画界の現状に思うところがある、と発言しているケースも多いし。
ただ軒並みありがちな企画だったり珍品だったりしてガッカリしてしまうパターンが多い。というかそれが当たり前になっているかも。

この映画も年に200本くらい作られる、シリアスで文句を言いにくいが全然良くもない、というパターンだった。

かなりまずいと思うのが、児童養護施設が舞台なのに、子供たちの息づかいや目線をまるで感じなかったこと。
低い目線だったり子供には世界がこう見えてますよっていうアングルが無いように感じたし、映画自体そんな印象は薄い。よくあるご当地映画、地味で画面が薄暗い低予算映画の枠。

そのあたり、子供を撮る名手の是枝監督とよく組む山崎裕カメラマンに依頼したことで撮影前に安心してしまったんじゃないか。
とにかく地味な映像が並んでいるだけって感じがしたけど、監督自身もそこは想定外だったのでは。

「恋愛映画やコメディ映画作ってるとシリアスが撮れないと思われる」といった偏見を世界の映画人がぼやくのを聞く。そんなもの保守的な考え、決めつけなのに。
監督をはじめとするプロデューサー陣もそんな認識で挑んでいたのでは? と勘繰ってしまった。
こういう映画だからこういう人に参加してもらいました感の肩透かし、結構ある作品だと思う。

エンディングテーマは橋本絵莉子の書き下ろし曲、スチールは小島小鳥、といったところもパッケージングの器用さを感じるけど、本編との違和感がすごい。
写真にのせて楽曲が流れるエンドロールはまるで別の作品が始まったようで変だった。

実際に世間を騒がせた事件をモチーフに少し加えているのも個人的にはげんなりしてしまう。
海外の映画祭にノミネートされやすいポイントとして、実在の事件をモチーフにしたがる監督は多いし、結構有効なんだと思う。ただ自分が関係者だったとしたら、と思うとちょっとやりきれない。
作家のジェイムズ・エルロイの場合、ある未解決事件を取り憑かれたように取材して暗黒小説を書いている。文章からその熱を感じる。そういうのだと納得出来るのだけど。

そう感じてしまうのはなにより、事件の回想シーンがあまりにもひどかったから。
現地の人を使ったであろうあの芝居、緊張感の無さはちょっと笑いそうになるレベルだった。

監督の小川紗良が児童福祉に関心が無い、ということも無いと思う。小説版も執筆しているし。
ただこの人が感銘を受けた映画、それを作った監督たちとの能力のひらきが大きい気がする。経験値じゃなくて、自分が作るものへの執拗さとかそういう差が。
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