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Mr.ノーバディのShingoのレビュー・感想・評価

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
2.9
前半は「ジョン・ウィック」、後半は「ランボー ラストブラッド」。それくらいざっくり紹介できるほど、単純明快でスカッとする映画。
ただし、よく見ると決して勧善懲悪モノというわけでもない。むしろ、バケモンにはバケモンをぶつけるんだよ!というキワモノ映画と言っていいかもしれない。

人畜無害に見える男=ノーバディが、実は怒らせてはいけないヤバい奴だったというだけなら、ジョン・ウィックもそうだったし、イコライザーもジャック・リーチャーもランボーもそうだ。しかし彼らが無用な争いを望んでいないのに対し、本作の主人公は明らかに戦いを欲している。
毎日、決まったルーチンワークをこなすだけの平凡な日常には、飽き飽きしているのだ。

だから、強盗が入り込んだ時には、内心しめた!と思ったに違いない。しかし、強盗はまったくの素人で、しかも銃には弾が装填されていなかった。ゴルフクラブを下ろしたのは、情けをかけたのではなく、戦う理由を失って脱力したからだろう。
その後、娘のブレスレットを取り戻しにいくのも、ただ戦う理由が欲しかっただけだ。結局、病気の子供の治療費のために強盗に入ったことを知り、再び失望を味わうことになる。
バスの中での大立ち回りも、大暴れできれば相手は誰でもよかったのだろう。

ハッチが戦うのは、ただ自分が戦いたいからで、いつも理由は後付けに過ぎない。家族を愛する気持ちはホンモノだろうが、それすら戦う理由に変えてしまうのがこの男だ。そういう意味で、ジョン・ウィックたちとは全く異なる人種だと言える。
どちらかと言えば、岡田准一の「ザ・ファブル」の方が近いかもしれない。

ハッチもだいぶ狂っているが、それ以上にオカシイのが彼の妻。2人が過去にどういう関係だったのかは定かでないが、傷だらけで帰ってきた夫を理由も聞かずに治療するし、最後の戦いの前に「とにかく帰ってきて。話はそれから」と送り出すタフさ。さらには、マイホームを全焼させたのに、2人で次の家を下見にきて、「地下室はある?」ときたもんだ。
いやいや、普通だったら即離婚ものですよ。ひと暴れしてスッキリしたのか、また家族するつもりなのも狂ってる。

ロシアンマフィアのユリアンもソシオパスって言われてたけど、この夫婦はそれ以上なんじゃないの?息子も強盗に組みついて絞め技きめてたし、絶対遺伝してるだろ。
次回作では、「父さんのようにはならない!」と反抗期を迎えた息子に、「怒りをため込むな、開放しろ!」ってダークサイドに引き込む話になると予想する。

追記:ユリアンのアジトから、ゴッホの絵を盗みだす場面。特にストーリーに関係のないシーンがわざわざ入っているのには、おそらく理由がある。
ゴッホはアルルに「芸術家の楽園」を作ろうとして、家を借りて画家たちを招待しようとするのだけど、ゴーギャン以外、誰も来てくれなくて失敗する。失意のあまり、自ら耳をそぎ落として精神病院に収監されてしまうのだが、その時に描いたのが、あの絵だ。
思うに、ハッチが平凡な家庭で平凡に生きようとして失敗したことが、ゴッホに重なって見えるからではないだろうか。
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