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Mr.ノーバディのAnima48のレビュー・感想・評価

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
3.8
ラザニアって最高で、今日はラザニアだよって言うと子供は皆大喜び、ひき肉入れてソース作って茹でたパスタとチーズを重ねてオーブンで焼くと家族が食べてくれる。日曜にお父さんがカレーを作るような具合かな?平和にちょっと手間がかかった手作りの食卓を囲むって本当に素敵。そんな日常の大切さや得難さを知っている男がそれを手放してまで、取り戻したい物って何だろう?

ハッチは冷たく残酷な暴力の世界から温かく愛にあふれた家庭へと人生の舞台を移した。見かけはリビングで旅番組でも楽しんでそうな中年の大人しい会社員のお父さん、モンタージュで描かれるハッチのルーチンは、朝起きて走り、ゴミ出しに間に合わず、朝食作っても食べてもらえず(朝からラザニアにしてみたらどうだろう?きついかな。)、バスで職場に通い、経理を担当する。奥さんや息子にはスルーされても黙って日常生活であまり怒りや幸福感等を表さない。忘れようとしていた反社会的なテクニックからくる衝動を抑え込むために無理してたのかな?安全で平和な暮らしが却ってストレスだったのかも。殺し屋としてのスキルは身に付けるのには長時間の努力が必要だと思う。それを封印してしまって、ハッチは自分自身に虚しさを感じていたのかもしれない。そう言えば会社を買う理由は自分のものが欲しいからだと話していた。

強盗が家に来た時プロとして相手を観察してリスクの少ない方法でほとんど被害を出さずに事を収めたハッチ。満点の対応じゃないかな?地味で派手さに欠けるけれど大切な人を守り切るという態度を称賛する話があってもいいんじゃないかと最近僕は思う、妙な男らしさを自制する勇気がある人の映画に触れたい。でもこの映画に見ようと思う時はそんなことはあまり考えない、だってみんな“優しい一般人が理不尽な目にあって、異次元の強さを発揮して小ぶりな大量破壊兵器になる映画”を見たいのだから。なんか言葉にすると健全じゃない響きがするけれど、そういう映画の見方だと思う。

ベストな対応をしたはずのハッチを男たちは皆軽んじる。息子ですら軽んじる。男らしさの暗い側面かな?中年を過ぎた男が夢中になる物が良く出てくる。マッスルなスポーツカー、ハイエンドなコンポ、地下室、そして男の自尊心。爆発の兆しは自分に愛してくれる娘の猫のキーホルダーが盗られたと思った時だった。それでも、まだ自制は聞いていたように思う

とうとうバスの中でハッチは、抑えが効かなくなる。無法者に叩きのめすと宣言して最初は笑われた後、滅茶苦茶攻撃を食らいながらも大乱闘。殴られたり刺されたり、骨を折ったりという動作がそれぞれ本当に痛そうで、洗練されたというよりは、手近な物で叩きのめす泥臭いスタイル。勢いでバスから飛び出てしまう。そしたらすぐに乗車してカムバック戦。第2ラウンドの方が調子を取り戻してる感じが良かった。通勤の足の路線バスをリハビリに使って勘を取り戻すけれど、路線パスで足が付くあたりがなんだか日常と地繋がりのような気がした。

自宅のキッチンで襲撃者を迎え撃つ時は、キッチンとして使っているそれまでよりも、人殺しの道具として使っている方が生き生きしている?バスの時よりも動作は切れがあり、“俺はとんでもないことをしてしまった”とか振り返ってすごく落ち込むわけでもない。何だろう“内勤よりもやっぱり外回りの方が俺向いてると思うんだよね”くらいのレベルの内省。地下室で“実はおじさん殺しのプロでさ・・”死体相手に語るあたりから完全復活してた。ハッチはもともと優しい一般人じゃなくて、この世界に戻りたかったんだなってよく分かった。・・というかここから札束燃やしたりとかものすごいレベルの高い憂さ晴らしになってて、エスカレーション具合を楽しむことができた。

…怒りをぶつける前に、落し物はちゃんとしっかり探したほうが良いと思う。
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