タケオ

ハウス・オブ・グッチのタケオのレビュー・感想・評価

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)
4.4
-全然華麗じゃない一族の狂乱祭『ハウス・オブ・グッチ』(21年)-

 リドリー・スコットは徹底した無神論者であり、「神」やら「血統」といった類のものに一切の意味を見出していない。所詮人間なんて生き物は非力でちっぽけな存在であり、真に不条理で残酷な「世界(システム)」を前にした時、意味あり気な戯言など何の役にも立ちはしない。そんなリドリー・スコットならではの世界観は、本作でもしっかりと貫かれている。
 監督も公言しているように本作は『ゴッドファーザー』シリーズ(72~90年)のパロディとなっているが、『ゴッドファーザー』らしいギリシャ神話的、決定論的な悲劇としての側面は丁寧に排除されている。その結果『ハウス・オブ・グッチ』(21年)は、下衆な人間たちが全速力で破滅へと猛進していく姿を描いたブラック・コメディとしての様相を呈することとなった。『ゴッドファーザー』シリーズというよりかは、『グッドフェローズ』(90年)『カジノ』(95年)『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13年)をはじめとしたマーティン・スコセッシの作品に近いかもしれない(事実、当初はマーティン・スコセッシが本作の監督を務める予定だった)。「野心家の妻がイマイチ気弱な夫を焚き付けて、一族の覇権を狙おうとする」とだけ要約した場合、本作のことを現代版『マクベス』として読み解くことも可能だろう(サルマ・ハエック演じる占い師は、明らかにマクベスに予言を与える'3人の魔女'として演出されている)。批評家の間では「映画のトーンに一貫性がない」「俳優陣の演技がキャンプの極みだ」などといった批判もあるようだが、個人的にはそんな統一感のなさこそが、まさにグッチ一族のグロテスクな人間模様そのもののようにも思えた。
 男性中心主義的な家系がやがて崩壊していく様を描いた『ハウス・オブ・グッチ』は、同じくリドリー・スコットが監督を務めた『ゲティ家の身代金』(17年)と同様に、「家父長制」に対する強烈なアンチテーゼとしても機能している。どれだけ上品に取り繕ったところで、「欲望」という名の魔力に取り憑かれたが最後、「愛」も「家族の絆」もなにもかも暗闇の彼方へ吹っ飛んでいく。『ハウス・オブ・グッチ』は、そんな器の小さな人間たちの滑稽な姿を余すことなく切り取ってみせている。
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