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モーリタニアン 黒塗りの記録のDickのレビュー・感想・評価

4.5
★冒頭に次が示される:「This is a truu story」。

❶相性:上。
★民主主義を支えている人たちに、心からの敬意を表したい。

➋時代:主人公のモーリタニア人スラヒが逮捕される2001年11月(9.11から2ヶ月後)から幕が開き、被告側弁護士ホランダーの活躍により裁判で勝訴する2010年3月に幕を閉じる。この間、2005年、2002年、1988年、1990年、2001年、2005年、2008年、2003年、2009年、2010年と時代が行き来する。
★時がテロップで表示されるので、分かり易い。
★加えて、現在のパートはワイド画面(Aspect Ratio:2.35)、過去のパートはスタンダード画面(Aspect Ratio:1.37)で示される。

❸舞台:容疑者スラヒの故郷のモーリタニアから幕が開き、弁護士のホランダーが在住しているニューメキシコ州アルバカーキ、米軍のカウチ中佐が関わったルイジアナ州の米軍海洋軍法会議、バージニア州の連邦保安センター、キューバのグアンタナモ基地、ワシントンの連邦裁判所等が舞台となる。
 
❹主な登場人物:
①ナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター):有能な人権派弁護士。スラヒの拘禁を不当と考え、後輩のダンカンと共にスラヒ救出の弁護を引き受ける。
★当時のグアンタナモ収容所では、700人以上を裁判なしで不当に拘禁・拘留していることが問題視されていた。
②モハメドゥ・ウルド・スラヒ(タハール・ラヒム):9.11の容疑者。1970年モーリタニア生まれ。奨学金を得てドイツはデュースブルクの大学に留学後、エンジニアとして働く。2000年にモーリタニアに帰国し、翌年米国の要請のもとモーリタニア当局により身柄を拘束され、アフガニスタンを経てグアンタナモ収容所に何年も収監中。この間、裁判にかけられることなく、厳しい拷問と尋問を受けている。
③スチュアート・カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ):スラヒを死刑判決にせよと命じられた軍の弁護士。彼にはテロリストを激しく憎む理由があった。ハイジャックされた飛行機のパイロットとは家族ぐるみの付き合いだったのだ。
④テリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー):ホランダーの助手の若手弁護士。アラビア語とフランス語が話せる。
⑤ニール・バックランド(ザッカリー・リーヴァイ):カウチと訓練生時代の同期で、スラヒを取り調べたことがあり、隠蔽の鍵を握る人物。

❺考察:

①公文書の黒塗りはモリカケ問題等の日本だけかと思っていたが、2000年代のアメリカにもあったとは驚き。為政者が、「不都合な真実」を握りつぶそうとするのは、世界共通のようである。

★例外がドイツ。『コリーニ事件(2019独)』や『顔のないヒトラーたち(2014独)』で描かれている通り、ドイツ人は、ナチス時代の不都合な記録を含む全ての「公文書」をきちんと保存して検索出来るようになっている。これは凄いことだ。尊敬すべきことだ。起きてしまったことは取り返すことが出来ない。真摯に過去と向き合い、反省し、記憶することが、民主主義と法治主義を守る基本なのである。

★「世界報道自由度ランキング2021」よると、180ヵ国中、日本はG7中の最下位の71位(注1参照)。

②ホランダーとカウチは、夫々の立場から、スラヒの取り調べの過程を洗い直していく。
ⓐホランダーが、裏付けのため政府に請求して開示された書類は黒塗りだらけ。
ⓑカウチは、報告書に多くの矛盾があり起訴に持ちこめないと判断し、尋問時のメモを請求するが国家機密に関わるとして却下されてしまう。
★まともな正攻法では、堅固であくどい軍隊組織の壁を破ることが出来ない。
★そこでものを言うのが、インフォーマルな「KKD(経験・コネ・度胸)」。

③共に真相究明を求めるホランダーとカウチは、今や「対立」ではなく「協力」関係となった。2人はKKDを駆使して強大な壁を崩していく。

④そして、2010年3月、遂にスラヒ側が勝訴する。

⑤しかし、釈放されるまでには更に7年の月日を要した。拘禁は14年2ヶ月に及んだのである。

❻まとめ:

①まともな正攻法では、堅固であくどい軍隊組織の壁を破ることが出来ないことを知ったホランダーとカウチが、インフォーマルな「KKD(経験・コネ・度胸)」を駆使して真相に迫る様子がスリリングである。

②周りの反対と、立ちはだかる権力の鉄壁に対抗し、人権と正義と真実を求め続けたホランダーとカウチは立派である。
★こういう人たちが民主主義を支えているのだ。心からの敬意を表したい。

③ジョディ・フォスターは、ホランダー役でゴールデングローブ賞「助演女優賞」を受賞しているが、どうして「主演女優賞」でないのか?と疑問に思った。
ⓐジョディは、ビリングがトップで、知的な演技も素晴らしく、「主演女優賞」が相応しいと思った。
ⓑ一方、容疑者スラヒ役のタハール・ラヒムは、受賞は逃したが「主演男優賞」にノミネートされている。
ⓒこのことから、ストーリー的には、スラヒが主役、ホランダーが助役であり、これが決め手と思われる。

(注1)「世界報道自由度ランキング2021」
①国境なき記者団(RSF)が2002年から毎年発表している調査。
②2021年4月の結果では、180ヵ国中、首位はノルウェー。以下、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、コスタリカ、オランダ、ジャマイカ、ニュージーランド、ポルトガル。
③日本はG7中、最下位の71位。RSFのコメントでは、菅義偉首相は2020年9月の首相就任以降、報道の自由の環境改善に向け何も対策をとっていないと批判。
独13位、加14位、英33位、仏34位、伊41位、米44位。
④日本は、韓国や台湾よりも低い。
韓42位、台43位、露150位、中177位、北朝鮮179位。
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