Jun潤

竜とそばかすの姫のJun潤のネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2021.07.16

3年に一度の細田守監督作品。
どのアニメ監督よりも細田守が好きな僕にとって待ちに待った6作品目。

仮想世界“U”に突如現れた歌姫・ベル。
彼女のオリジンは、高知県の片田舎に暮らすそばかすの少女・すずだった。
ベルのライブに現れた謎のアカウント・竜の正体と動向を巡って、“U”と現実世界を舞台に竜とベルの邂逅とすず達の活躍が描かれる。

予告の時点で監督の過去作「サマーウォーズ 」ぽさが際立っていましたが、ところがどっこい今作は監督の初期作「時をかける少女」ぽさをところどころに感じました。

“U”については、なるほど確かに「サマーウォーズ 」の“OZ”のようでしたが、インスタやらYouTubeやらとの互換性や生体認証など、より進化した環境のような感じで、また違った世界観に仕上がっていました。
ただ、現実世界の生活と切っても切れない関係になっていた“OZ”と違い、SNSの延長線上でしかなかったのはなんだか残念な気がしました、描写されなかっただけかもしれませんが…。

しかし女子高生の日常との親和性については描写の深みが増していて、苛烈になるSNSと噂話、グループ間の噂の流布をボードゲームに例えるのはコメディ要素が効いていてなかなか楽しめました。
そこが主軸ではないので仕方がないですが一回こっきりだったのは少々寂しかったですね。

すずがベルとなり、“U”の中で一躍有名人となるのは現実のバズりのようにちょっとしたきっかけだったり、“U”の設定的にも無理がなかったりしていて、観ている側も自然と受け入れられました。
ただもう少しプロデュース面だったり成功していくサクセスストーリーもじっくり見たかったところ。

“U”内の描写、竜とベルの作画やアバター“As”の動きなどは日本のアニメの枠を超えてディズニーのような作画やキャラ造形で、国産でここまでの描写をするようになったかとため息ばかり出ました。
制作陣にディズニー経験者が多数いるとのことでしたが、まさかここまでとは。
モチーフは「美女と野獣」ということで、元ネタは恥ずかしながら一度も見たことはありませんが、城の作画や竜とベルのダンスなど、リスペクトを感じるシーンが多数あって見応えがありました。

また、竜とベルの関係性についても、暴力的に振る舞って自ら孤独を求める竜に対して、現実世界では人目から逃げて積極的に人の前に出ようとはしないすずが近付きたいと思うという、自然に繋がりが描かれていたと思います。

現実世界の描写も、上述の通り「時をかける少女」的な高校生たちの淡い恋模様や脆く見えても固く繋がっている友情、過去のトラウマや現在のトラブルに対しても支えてくれる周囲の人々との繋がりが、自然に囲まれた原風景的な田舎を背景に描かれていました。
それがとても情緒的で、より自分と他者の繋がりにフィーチャーしていたことが、家族の絆を描いた「サマーウォーズ 」よりも恋愛が描かれた「時をかける少女」的だと感じた一番の要素でした。
しのぶくんがすずにベルの正体について問いかける場面は時かけを思い出しましたし、
まあ一番は世界の危機を救う!的な内容ではなかったことですがね、、。

オチについては、直近の監督作品よろしく賛否の分かれそうな印象を受けましたが、1億人のためではなく、ただ一人のために歌われた歌が世界を動かし、“U”にいるもう一人の自分という仮面を外して素顔の自分で相手の心を開かせる、仮想世界で心を救うだけでなく現実世界でも行動を起こしてちゃんと救いきるなど、多少の強引さは感じましたがなかなか綺麗に見える道筋を辿っていたと思います。

竜とベルの作画だけでなく、“U”と現実世界の作画の対比もまた絶妙で、SFチックな背景に3Dアニメ的なキャラ造形の“U”、自然の美しい背景にザ・アニメ的なキャラ造形の現実世界の世界観が別個に存在していたからこそ、ラストで“U”に現れたすずの存在感がひときわ輝いていました。
これですずとベルが並び立って歌うなんて場面だったら涙腺は消滅していたことでしょう。

今作では少し強引な気もしますが監督の過去作との関連性を随所に感じました。
上述の通りストーリーラインは「時をかける少女」、“U”の世界観は「サマーウォーズ」、竜のオリジンの家族は「おおかみこどもの雨と雪」で描かれた、子供の自立を願う親と対比するかのように子を束縛する親が描かれていました。
また、「バケモノの子」にも出演していた役所広司染谷将太コンビ、こちらは相変わらず安定している役所と王道な主人公を描いた前作とは違って今作ではクセ強めなキャラを演じた染谷の見応えはだいぶありました。
そして、役所演じるすずの父親の、耳触りのいい落ち着いた声で常に子を見守っている様子が描かれていたからこそ、かつて他人を救って命を落とした母親と同じように自分のことよりも他人のために行動するようになったすずの姿に、「未来のミライ」と同じように親の知らないところで成長する子供の姿が如実に描かれていたと思います。

とここまで褒めちぎるレビューをしてきましたが、仮想世界に女子高生の日常、異形のものとの邂逅やキャラの成長などなど、要素がモリモリすぎて尺におさまっている印象が薄かったことや、それだけ描かれる要素が多かったにもかかわらず冗長な場面があることは気になりました。

しかしまあいい場面の印象の方が強いですし、作品を彩る音楽たちも、ベルの歌声に乗っていることもあり世界観にマッチした音楽だったと思いますし、ゲスト声優らしい棒演技もクセになりますしプロの方々の安定した演技だけでなくモブのモブらしい声も入っていたこともあってSNSのリアルさがよく出ていたと思います。

他にも天使の正体やオリジンが描かれない“As”の存在など妄想が広がるけれども描写が足りないようなところもありましたが、全体的にはやはり期待通りの良作でしたし、すずの成長一つに絞ってみれば最高傑作と言っても過言ではないほどの完成度だったと思います。
(他の要素が多くまとまりがなかったことを含めて他作品よりも☆はマイナスにいたします…。)
Jun潤

Jun潤