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竜とそばかすの姫の8637のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.3
あなたはこの世界を信じるか。あなたはUを疑うか...
現実とU、すずの成長と竜の登場...とストーリーが多すぎて面白さが一本の中に収まりきっていない!でもどちらかの世界だけじゃ物足りない。
その表裏的な世界を繋ぐのは"ネット社会"。発展した以上、他人からの見え方を気にして生きなければならないのが現代なのかな。賞賛も批判も、全部ひっくるめて自分なのだから。傑作。

テーマ的には「サマーウォーズ」の進化版で言いようによっては"使い回し"なのだが、そもそもこの現実が「サマーウォーズ」の世界を十数年かけてなぞっている感覚があるので、今作はよりリアリティがある。

まず細田作品でシネスコってところから本気度がうかがえる。Uの映像美は限りなく3Dに近い。粒子レベルに極小の光が差し込む瞬間は映画館じゃないと感じられない。
中村佳穂やmillennium paradeといったサブカル派の存在が細田守という王道の映画作家と交わる事にも興奮した。幾田りらを歌手ではなく100%声優として起用した事も大成功。まぁつまり全て良かった。

UってSNS社会の今から見ても恐ろしいコミュニティだと思う。「もう一人の自分を生きよう」「世界を変えよう」という胡散臭い説明が、なんとなく宗教的にも見えてくる。それに呑まれ、BelleもUの中で神格化した。教祖的存在、でもそれが誰かの一時的な救済になるのかもしれないが。
ただ、登場した瞬間にここまで批判が殺到するのかは分からないな。そもそもSNS批判の表現もそろそろ色褪せてきている。確かに今でもありふれた"事件"の一つだし、鮮度はないものの「今の映画」という感覚だ。凍結を揶揄するような描写等も。そこが「サマーウォーズ」と違うかも。

関係はないけれど、中村佳穂の「you may they」でも同じような内容が論じられているのを思い出したり、歌い手同士の上位争いを、本職がミュージシャンの声優たちが演じていると思って笑っていた。

ネット上に警察ほどちゃんとした正義の存在って確かにいない。Twitterでもせいぜい誰かの報告を受けてなんとなくで運営側が垢BANするくらいだ。だからあの正義の存在の言うことも少しは理解できた。てかあいつサノス感満載じゃね...

細田守の描く夏は、暑苦しさのない爽やかな青夏。Uの悲劇の裏で展開されているのは、誰も知らない純粋な恋愛物語だった。これがめっちゃ尊い。ずっと固定・長回しで行われる告白シーンがシュールで最高だった...!高知のキャラクターは全員好きで、特にすずの父には役所広司の声で泣いてしまった。
だけど現実でもSNSが絡んでしまえば負しか見えない。付き合う男女が釣り合うか否かなんて本人にしか分からないのに、周りが理想を強要してくる。それを解決したヒロちゃんもヒロちゃんで、よく分からない存在だった。

「美女と野獣」へ導かれたストーリーに関しては、まず監督が"ネット上のビューティーアンドザビースト"を意識しているので、正式にオマージュと言った方が良いだろう。確かにあれはロマンの象徴だった。二人でいる夜空に輝いていた星が、出ずっぱりな二人に干渉せず、黙って見守っている"As"達にも見えた。
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