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竜とそばかすの姫のShingoのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.5
細田守監督が、これまで手掛けてきた作品のすべての要素が詰まった、集大成とも言える映画。
主人公・鈴と幼馴染のしのぶ、カミシンの3人は「時をかける少女」のようだし、高知の田舎町や、仮想世界<U>は「サマーウォーズ」、「竜」の造形は「おおかみこどもの雨と雪」、空を飛ぶクジラは「バケモノの子」だ。そして、「家族」が重要な要素として描かれるのは、「未来のミライ」と共通する。

本作を見て誰もが感じるのは、<U>の世界におけるベルのキャラクターデザインが見るからに「ディズニー映画」っぽいところだと思うが、それもそのはずで、「アナ雪」他のメインキャラを生み出したデザイナー、ジン・キムを起用している(くちびるの描き方などが、いかにもディズニー風)。現実世界はこれまで通りの細田守の世界だが、一歩<U>の世界に踏み込むと、そこはディズニーワールドだ。

<U>の世界のデザインには海外の建築家、ベルの衣装は本職の衣装デザイナー、ベルが歌う時の振り付けも本職の振付師を起用し、アニメ業界の枠を超えたマッシュアップによって、本作は出来上がっている。
作品世界の中においても、ベルのライブの衣装や演出などを、世界中の「As」がこぞって協力する場面が描かれるが、映画自体がそんな作りになっている。

ベルが初めて歌う場面で、早くも「アンチ」や「中傷」する「As」が登場するのが象徴的だ。ベルが有名になる程、その数も増え続ける。また、ベルのライブ映像が切り抜かれ、編集され、拡散される様子は、いかにも現代のネット文化らしい現象だ。
そして、「竜」のオリジンを探して「アンベイル」しようとするのも、現実のネット社会の「身元特定」をそのまま反映している。「竜」の城が燃やされるのは、文字通り「炎上」しているということだ。
本作が独特なのは、この<U>の世界を生み出した5人の賢者「Voices」が全く登場しないことだろう。いったい誰が、どんな目的でこの世界を創造したのか、作中では全く説明されない。
<U>は「サマーウォーズ」の<OZ>の進化版として構想されたそうだが、<OZ>が現実世界と結びついたインフラのようなシステムだったのに対し、<U>はSNSや動画共有サイトのような世界になっている。それは、本作のテーマと無関係ではない。

本作で描かれるのは、現実でも仮想空間でも、そこにいるのは生きた人間であること。言葉のナイフが人を容易に傷つけること。正しさよりも優しさが重要であることだ。
「竜」の抱える苦しみや痛みを知ることなく、正義の名のもと身元を特定し、晒し、排除すれば<U>の平和は保たれるかも知れないが、おそらくそれは「Voices」の望む<U>の世界ではない。だから、この世界には「警察」のような組織がなく、罪も罰も基本的に存在しないのだろう。
それは現実社会では実現不可能な理想郷だが、仮想空間である<U>ならば可能なのではないか。
細田守監督は、インターネットの世界には希望があると信じているが、そのひとつの答えとして<U>を創造したのかも知れない。

本作はベルが歌姫という設定であることから、劇中で歌う場面がいくつもある。中村佳穂の伸びやかな歌声は、劇場の高音質で聞くと、ことさら魂が震える。この映画は、劇場で鑑賞しなければ感動を半分も味わえないだろう。ストーリーはそれほど大きくはなく、筋立てもシンプル。だが、歌と物語がひとつになり、得も言われぬ感動を与えてくれる。
この高揚感は、「超時空要塞マクロス」の「愛、おぼえていますか」を聞いた時以来、久々に味わったような気がする。

個人的にツボだったのは、駅の改札でルカがカミシンに告る場面。
生まれて初めて告白され、後ずさって逃げるカミシン。それを追いかけて押し戻す、鈴。ちょっと湯浅政明を思わせるコミカルなシーンで、それでいて甘酸っぱい。カミシンは登場シーンからして「いい奴だな」と思ってたから、なんかニヤニヤしてしまった。

本作は、アニメ作品としては珍しく、あまり説明過多になっていない。鈴がなぜ歌おうとするとゲロを吐いてしまうのか、恵と知の父親がなぜ自分の子どもを虐待したのか、詳しい事情は省かれている。
「竜」の城にあったガラスの割れた女性の肖像画は誰だったのか。鈴としのぶの関係は、これからどうなるのか。いろいろ気になって、パンフレットを買おうと思ったら売り切れていたので、代わりに小説版を買ってしまった。

追記:
レビューを拝読していると、7:3くらいで賛否が分かれているかな?否の意見で多いのは、ストーリーが雑、感情移入できないというもの。

この映画は、鈴が母親を失った喪失感から立ち直るまでの話であって、それ以外の要素はあくまで補助線に過ぎない。だから、竜の正体も現実世界の恋も、そんなに重要ではないと思う。

ベルと竜が出会うまでの流れに引っかかる人がいるが、ベルはクリオネ(=知)に導かれて竜の城に辿り着いている(AIは邪魔しようとするが)。「美女と野獣」のイメージが色濃いため、二人が恋に落ちる流れと解釈すると違和感があるが、実際はそうでないことは明らか。
竜の正体がしのぶなのでは?というミスリードがあるので、「恋してるね」と茶化される場面があっても、勘違いしてはいけない。

その竜のオリジンが、父親から虐待を受ける少年だと分かり、何とか救おうとする。この問題が何ら解決されていないという不満の声もあるが、この映画は虐待をテーマにしていないので、それも省略されている。
見ず知らずの誰かのために行動を起こす、それによって母親の気持ちを理解する。その時点でこの物語は完結していて、その後の描写はおまけに過ぎない。

あと、「感情移入できない=つまらない」というのは、ちょっともったいない。登場人物に感情移入できたら、それは確かに映画をより愉しめるとは思うが、感情移入しなくても作品世界に没入し、理解することはできる。それは、自分とは違う他人の気持ちを想像することにもつながる。