故ラチェットスタンク

竜とそばかすの姫の故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.1
細田監督のデジタルな部分は基本的に嫌いなんだなって再認識
逆にアナログな部分は大好き。しかしそのアナログな部分をメッセージとして押し出すには、はっきり言ってもう時代遅れなんだなとも感じた。

匿名性、伝播性、などのデジタルな手段というものの悪さばかりが目立っていて今の時代には合ってない気がしてしまう。
アナログで上手くいくこともあればそうじゃないこともあるってのをアナログをずっと素晴らしくやってきた細田監督がやるからこそ重く響く物がありそうなのに勿体無いなー。

また、人間の一面的な部分を映そうとすると陳腐かつ平淡になってしまう細田節は今回も健在なもので、Uの世界での悪口、褒め言葉、どれもこれも非常にありきたりに響いてしまいました。

画の美しさ、音楽の素晴らしさ、現代の人間の姿を自然に捉える見事な洞察力、いつも通り良い点は良いのだが
脚本のナンセンスさ、無駄に壮大なクライマックス、一面的な部分の描き方の拙さ、いつも通り悪い点は悪い映画だった。

今までより問題点がより大きく見えてしまった点を挙げるなら現実世界と仮想世界の物語的プラス映像的な乖離具合

あくまで舞台装置としてしか機能しておらず、全くワクワク感が無いのが残念です。
Uの世界のキャッチコピーも謎で「現実ではやり直せない、でもここでならやり直せる」ってのを強調してくるんだけど、Uの世界でもやり直せないようになってるし、身体、精神的な特徴がアズに反映されるから別になりたい自分とやらにもなれない。

こう言った要素が全体にわたってあることで作品内で言っていること、言いたいであろうことに矛盾が生じてしまっている。非常に歪な印象を与えてしまっている。

世界観デザインは興味深く素晴らしいですが、「どんな場所で何ができるのか」が殆ど説明されないため、非常に立体的でありながら平面的な世界観に見えてしまった。
ベルが龍に惹かれる理由も描写不足感が否めない。

こちらのリテラシーに委ねるのは勿論大歓迎なのだが、能動的に読み取れるだけの情報や引き込みは必要だよと
匙加減の問題ではあるけども…

ミュージカル要素の良さはやはりある。一曲一曲にストーリー的な意味があるし、映像的にも素敵。
クライマックスの所謂「たった1人の最終決戦」感がたまらなく好き。

現実世界の描写は現代のアニメ映画の中でも逸脱して良い。
・音楽のみで語られる鈴のバックストーリー
・食堂で会話するシーン
・歩道越しに話す2人
・駅で事故的に告白してしまう様子を引きで撮る一連のシークエンス
はここ最近のアニメ映画の中でも特に心に残った。
届いたり届かなかったり、近づいたり離れたり、人の思いっていうのがとにかく丁寧に赤裸々にかつ美しく描かれている。