十一

竜とそばかすの姫の十一のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
4.4
脚本についての評をいくつか読んだか、判断を保留にしている。鈴を一人で東京に行かせる周囲の大人の無責任さ、また、ネット上で身バレすることの危険についての想像力の欠如。ストーリーラインも散らかっているように見えるが、3行にプロットが要約できるような作品に価値はない。大文字で現れるテーマはなく、語られることの細部を重視したい。光の球を浮かべて共感を示す大衆は、実際には何も現実的な助けをもたらさない。それは無責任に批判を繰り返すだけの観衆の影絵だ。映画にとっての観客も同様で、作品のテーマに共感し、語られた何物かを持ち帰りはするが、作り手の問題には何も関係することはない。ここで、ネット、あるいは大衆の善意というものは壮大ではあるが無力な風景として主人公を取り巻く。量化された大衆は純粋な権力と同義で、そこに倫理的な人格はない。ひたすらに均質化を志向し、システムからの逸脱を暴力で抑圧する。この透明な嵐、社会そのものの機能的な悪意についての細田監督の嗅覚は異常に鋭い。ジャスティスが駆逐されたのも、人気勝負に負けただけだし、だからこそ、竜はネットの名も知らぬものの助けを拒む。透明なみんなが定義する倫理の押し付けを、この作品は終始拒んでいるように見える。ゾッとするほどの冷たさで、匿名化された人々への憎悪に近い人間不信を描きながら、名もなきひとりの高校生の物語をみんなの物語として示してみせてしまう不可解さ。未来のミライにて、保守的な家族観と旧弊なジエンダー観に違和感を覚え、それは本作でも変わらないのだが、それだけで語りきれない矛盾の総体が興味深い。もっと大きな文脈でこの監督を捉え直した方が良いのかもしれない、などと思う。
十一

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