ちょげみ

竜とそばかすの姫のちょげみのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.6
あらすじ [2]
 自然豊かな田舎に住む高校生すず。彼女は小さい頃に母を亡くし、それが今現在の性格にも尾を引いていて幾分内気で、父親との関係もうまくいっていない。
そんな閉塞した生活の中、親友に全世界で50億人以上が集う仮想世界<U>に誘われ参加する事に。<U>では自分の分身と言えるアカウント[As]を作り、何度でもやり直せる、もう一人の自分になることができる。現実世界では発揮できない歌唱力を存分に発揮し、彼女は瞬く間に<u>での歌姫に、世界中の注目を集める人物になっていく。
 数億人のアカウントが視聴する大規模コンサートの日、「竜」と呼ばれるAsが会場に乱入し、<u>の正義と秩序を守ると自称する自警団ジャスティンと一戦交える。世界中の嫌われ者である竜はコンサートを破壊した張本人として非難の的になってしまう。
 謎の人物竜の正体を突き止めようと親友のルカちゃんが画策している中、すずは竜についての情報を集めるに従って徐々に竜のことを気にかけ、そして近づきたいと願うようになる。



 本作はアニメ映画界の巨匠とも言える細田守監督の最新作で2021年に公開されました。
「時をかける少女」「サマーウォーズ」などの大ヒット作を次々生み出し人気を博していた細田監督、今回はどのような作品を作るのか注目の的となっていましたが、「サマーウォーズ」のような仮想世界を舞台にしています。キャラの風貌、性格、設定などはどこか「美女と野獣」「ハウルの動く城」と似たような印象を受けました。

 細田守監督の作品の特徴ではありますが、仮想世界(あるいはファンタジー世界)と現実世界を並行して描き、仮想世界の出来事が現実世界に反映され現実世界の人間関係に波紋を起こし、それがまた仮想世界の出来事に影響を与えていく、というような仮想世界と現実世界の相互作用によって主人公は大きな成長、変化を見せます。

その例に漏れず、今回も主人公の大きなステップアップとして、昔現実世界で起きたトラウマを克服する機会が仮想世界にて与えられています。
内気で臆病なスズが脳裏にこびりついて離れない、母親が見ず知らずの子供のために身を挺して助けようとした、という自己犠牲の出来事が仮想世界でも起き、今回はすずが見ず知らずの竜を助ける側に回ることで今までの自分の殻を大きく破る必要に迫られ、思い切って一歩を踏み出す事で抱えていた悩みを解決するというものです。

しかし本作は今までの細田作品とは一線を画しているところがありまして、それは現実と仮想世界(あるいはファンタジー世界)がきっぱりと分断されているということです。
「サマーウォーズ」「バケモノの子」などではふたつの物語がやがて一つに混じり合って溶け合う、最終的にはその溶け合った土俵において物語のクライマックスが描かれている、という結末でしたが、今回の作品は打って変わって<U>での仮想世界においてはアクション、音楽、などの派手な演出が行われて、現実世界では内向的な少女が他人に触れ合い成長していく青春物語の様相を呈している、というようにその二つにおいて描かれるテイストは決して交わることはありません。

 
 スズは現実世界での生活に閉塞感を感じ嫌気がさしている時にたまたま友人に誘われ<U>の世界に足を踏み入れます。そしてそこで得たドーパミン的快楽に夢中になって<U>での生活に入り浸っていきます。
しかし言わずもがな、SNSとは栄養素の低いジャンクフード的なものであり、自分が存在しているのは現実世界なわけなので、<U>で自分が生きていく栄養素を全て補給できるわけではないです。現実世界でしか生きるための栄養素、自分の存在意義や目的や楽しさや目的、つまり幸せを手にすることはできません。スズは人とのリアルでのコミュニケーション、繋がりによって健全に生きるための活力を取り戻していきます。


とまあ、長々と書いてきましたが総評すると
<良かった点>
・<U>の世界観
・細田守の平行世界の描き方に変化がみられた
・圧倒的な映像美
・音楽
・オープニング

<悪かった点>
・リアルでの世界(学校生活や高校生)での描写(確かに普遍的な要素もあると思うけれども時をかける少女の時からあまり変わっていない...)
・キャラデザ(いろいろコンセプトとかはあるんだろうけどサマーウォーズと比べると竜とそばかすの姫の<U>でのアバターは魅力的には感じない)
・脚本(ここが一番目についた。脚本は誰か他の方に任せるべきだったのでは...)
・謎のミスリードの人物(メジャーリーガーやマダム)
・ご都合主義的な展開(細田守の監督の大きな特徴であり、多かれ少なかれどの作品にも存在しているだろうけど、本作は特に...)
・物語のテンポの悪さ

あまり物語として傑作とは言えないなぁと思いました。
ちょげみ

ちょげみ