keith中村

1秒先の彼女のkeith中村のレビュー・感想・評価

1秒先の彼女(2020年製作の映画)
4.9
 「消えた1日をめぐる物語」程度の予備知識で鑑賞。
 なので、勝手にタイムトラベルものかと思っていたら、全然違った。
 予備知識がなかったので、「おれはどこへ連れてかれるんだ?」と物語の構成を存分に楽しめました。
 
 観てると予想したようなタイムトラベルものではないことが判然とするんだけれど、じゃあどんなタイプの作品かと考えちゃう。
 前半の途中くらいから「ハングオーバー!」みたいな映画なんだなと早合点しちゃったんだけど、実際には全然違ってた。
 エンドロールはかなり「ハングオーバー!」だったけどね。
 
 後半が始まると「パルプ・フィクション」だったり「運命じゃない人」だったりに似た「視点のシフト」がまずは描かれる。
 ここで、「あ、そっちか」とやや安心する。
 ええっと。「安心する」って、こういう鑑賞方法、自分でもどうかと思うんですよ。
 でもさ。映画をたくさん観てる皆さん、そういうことってありません? つまり、観てる間に過去の類似作を次々と思い出したり、作品を一定のジャンルにはめ込もうとしたり。
 その意味で、本作は「どんな映画かわからなかったけど、『視点シフト映画』だったんだ」って思えてほっとしたのね。
 「自分でもどうかと思う」って書いたのは、それが早とちりとなって、虚心に観てる人にはない先入観が産まれちゃって、「わかったつもりになっちゃう」っていう危険が生じるから。
 
 で、後半観てたらあれじゃないですか。
 えっとね。これも結構最近観た気がする。あれだ。韓国の「隠された時間」。
 あっちは徹底してるんですよ。CG使ってがっつりやってる。
 だからあっちは、風も吹かない。樹の梢も揺れない。海だって波立たない。完全に停止した世界を描いていた。
 ところがこっちは、最初は「雑だな」と思っちゃった。
 だって、風船なんかは動くし、海は波打ち返すし、頑張ってるけど役者さんたち、結構プルプルしてるから。

 んでもって時間は止まってない。どうやら経過してるんですよね。
 「なんだこれは?」
 まあ、そう思うのも、すっかり本作に翻弄されちゃったわけで、言い換えれば滅茶苦茶楽しめたってことなんで、よかったのですが。
 
 んでもって、「この人は伏線なんだろうな」と序盤で思ってた人が満を持しての登場。
 本作の仕掛け、言い換えると本作が伝えたかったメッセージが提示される。
 おれ、あれなんですわ。「神さまにもらったおまけの一日もの」ってかなり好きで。
 まあ、これは大槻ケンヂの歌詞を元に勝手に自分でそう呼んでるだけなんで、そんな用語はないんですが。
 でもね。「神さまにもらったおまけの一日もの」って、意外と多いんですよ。
 
 たとえばさ。「突然死んじゃった人が神様や閻魔様に機会を与えられて一定時間人間世界に戻る」映画ってわんさかある。
 「恋はデジャ・ブ」みたいなループものは、おまけは一日じゃなく、無限に近いくらいの時間をもらえちゃうんだけれど、やっぱこの系統ですよね。
 その意味で、本作はいろんな作品は彷彿としたけどさ。「神さまにもらったおまけの一日もの」としては結構新手のものじゃないですか?
 
 あと、みんな大好きな「見る・見られるの反転」というのが本作の大きな装置だったのもよかったですね。
 これも傑作・良作が多いジャンル(って言うのかな)だし。
 
 最後にどうでもいいことをひとつ。
 本作で語られる「時計の秒針って、自分が見てないときは怠けて止まってるんじゃないの?」
 これは、私の記憶の中で最も古いもののひとつ。
 物心ついたころに、この思いに囚われて、「ふっふ~ん♪ 時計見てませんよ~」からの、「(急に時計に振り返って)キッ! …ほらほら! いま一瞬サボって止まってたよね!」
 3歳か4歳のころ、これ、めっちゃやってました。世の中の仕組みがわからないから、マジで時計のサボりを見抜こうと思ってやってた。
 ま、本作でも語られるけど、世の中の仕組みなんて、別に未だにわかっちゃないんだけれど…。
 ちなみに、当たり前だけど、世の中のほとんどすべてのモノや現象には名前がついていて、これは今なら知ってるけど、秒針が止まって見えるのは「クロノスタシス」ですね。