スクラ

MONSOON/モンスーンのスクラのレビュー・感想・評価

MONSOON/モンスーン(2020年製作の映画)
4.0
<フィクションながらも現代社会の実情を描いた映画>

親の死をきっかけに生まれ故郷・サイゴンに戻ってきたキットのアイデンティティを巡る物語。キットは6歳でベトナム戦争の混乱の中、家族と共に国を脱した経験を持つ。
市内をバイクタクシーで移動する際の様子、従兄弟のリーの家で彼の母が話すベトナム語が理解できない様子など前半の描写は彼が故郷にいながらも「よそ者(ストレンジャー)」である様が巧みに表現されている。

監督の半自叙伝的な映画と聞いていたが、監督のみならず、このグローバル社会に溢れる移民二世のアイデンティティや実状をリアルに映し出している。フィクションでありながらも、まるでドキュメンタリーを観ているような感覚にさえなる。

後半はキットが放浪のさ中に出会ったアメリカ人ルイスとの関係性の描写に重点が置かれている。
アメリカ人である彼はベトナムでは「よそ者」、ベトナム人だけれども「よそ者」であるキットとの共通点がそこにある。一方で二人の関係性はベトナム戦争の要因とするアメリカに対するベトナムの遺恨の存在をほのめかす。個人としては共通点がありながらも、生まれ故郷の歴史ゆえにキットの感情を探りながら接していくルイス。自分はただその国に生まれただけなのに、国の歴史も背負わされる現代、ここの描写もとてもリアル。

「移民二世のアイデンティティ」、「越境」、「よそ者(ストレンジャー)」などをキーワードに文化人類学、もしくは、社会学あたりの書籍を読んだら、よりこの映画を楽しめそうかなと思った。
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