半兵衛

国境の南の半兵衛のレビュー・感想・評価

国境の南(1941年製作の映画)
3.8
パンフレットの解説文のイメージから社会派的なメロドラマなんだろうなと思いきや、まさかの人情メロドラマだったとは。

第二次世界大戦のころ、フランスでジゴロみたいな生活をしていたダンサーの主人公(シャルル・ボワイエ)はナチスの進攻にともない安全なアメリカへの移住を求めてアメリカに近いメキシコに到着する。ところが当時はそういうアメリカへの移民を求めて申請する外国人がとんでもなく多かったため、主人公は正式な書類を出しても8年(!)たたないと許可が降りないという。とりあえずホテルに長期滞在して待つことになった主人公だが、かつての相棒だった女性がアメリカ人と結婚して国籍を入手、無事にアメリカに入ることができたという話を聞いてかつてのジゴロテクニックを駆使して一人の女性(オリビア・デ・ハヴィランド)を騙して結婚するが…というお話。第二次世界大戦下における移民問題を取り上げており、そうした人たちが比較的入りやすい(アメリカとも親しかった)メキシコで申請の許可を待っていたという歴史的事実が興味深い。あとそうした移民の中にドイツ人がいたというエピソードがあるのだが本当にあった話なのかな、ユダヤ系?

でもそうした移民の問題を掘り下げるより移民とアメリカ人の恋愛や移民たちの付き合い、彼らのキャラクターに比重を置いているのは脚本に参加しているビリー・ワイルダーの影響なのか。確かに冒頭の出だしは『サンセット大通り』を思わせるし、ユーモア溢れる展開や語り口、キャラクターやギャグはまさしくワイルダー節。一歩間違えれば単なるシリアスなメロドラマになるところを所々で笑いやサスペンスを入れて飽きずに見せる技量もワイルダーらしい。小津安二郎や清水宏作品から出てきたのかと思ってしまうヒロインが務める学校の悪ガキ連中の活躍ぶりや、その被害にあうヒロインの故障した車を修理する自動車の修理工(川谷拓三っぽい)のコメディアンっぷりも楽しい。

後半騙していたはずのヒロインに本気で惚れてしまう主人公、だがヒロインは主人公の目論みに気づいてしまい別れる羽目に。ところがここから話が二転三転し、予想も着かないところへ到着する後半の展開が凄い。そして冒頭の展開がラストのフリになってるんだろうな…と思っている意地悪な観客の予想を裏切り、そこから真のエンディングへ。大抵の人は「卑怯だよ」と言いそうになるが、幸せそうな二人を見ると「まあ、いいか」と思ってしまう。

一番の見所は主人公とヒロインが新婚旅行として向かうメキシコの街の描写、セットのはずなのに本当にメキシコでロケをしているのではと思いそうになるリアルな空気が充満している。それとも本当にメキシコで撮影しているのか?

ヒロインを演じるオリビアの演技も最高、冒頭の堅物教師ぶりや、主人公に惚れてから急に饒舌になったりはしゃいだりする姿、後半主人公の本性を知り凛とした態度で拒絶する姿などパーフェクトなヒロイン演技を披露して作品への感情移入を高めている。
半兵衛

半兵衛