コキジ

U・ボート ディレクターズカットのコキジのレビュー・感想・評価

4.5
敗戦国ドイツからの視点で描かれた、戦争映画の金字塔。

ハリウッド映画では、ドイツ兵はロクなもんじゃない的な描かれ方をされたりしていますが、
そして自分は『プライベートライアン』などの作品も凄い映画だと思いますし実際DVD買うほど好きな作品ですが、
この『Uボート』を観れば、ドイツ兵も戦争では皆同じ「駒」として扱われ、それはとても虚しい事で、哀れな事で、何よりも悲しい事だと、教われます。

戦争に正義もクソもない。政治に利用された「合法的な殺し合い」だと。

艦長は受け取った極秘指令が「賭け」だと悟ると、乗務員2名に下艦を命じますが、それは本部に却下されます。
極秘指令とは、「処女のように狭い」ジブラルタル海峡の無謀ともいえる強行突破。敵艦や戦闘機がうようよしている真っ只中に放り込まれます。

猛攻撃を受けて反撃すら出来ず沈む潜水艦-Uボート。
しかし彼らは生きています。海の底で。
背筋も凍るような水圧に耐えて軋む艦内、電球は弾け、ボルトは弾丸のように飛び、
狭い艦内を人が走り、負傷者は叫び、物は飛び交い、
更に止めようのない浸水、火災、殆どの計器やエンジンなど動力機関の故障、
乗務員の汗、減っていく酸素、
凄まじい緊張感です。

ここからの脱出劇は手に汗握らずには見れません。
しかしボロボロの体で辿り着いた港で、祝賀ムード一色の、
誰もが「ハッピーエンド」だと思う華やかな出迎えを受けている時、
戦闘機の集中砲火を浴びて乗務員の殆ど全員が呆気なく死体の山となります。
彼らの苦労や勇気や努力や汗や涙や喜びは、一瞬で水泡に帰します。
艦長も沈んでゆく潜水艦を見届けるように息絶えます。
「全ては無駄だったのか」、そんな台詞さえ無く、流れ始めるエンドロール…。

初めて見た時はこの幕切れに呆然としました。
しかしそれこそ製作者の望む物だったのでは、と今では解釈しています。

色褪せず、観客を虜にし、それでいて残酷な真実を突きつける不朽の名作。
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