青二歳

ウォーターシップダウンのうさぎたちの青二歳のレビュー・感想・評価

3.1
今作はイギリスの児童文学をアニメーション化したもの。動物の擬人化アニメは苦手(とりわけ肉食獣を悪役にするものが無理)なので、安易な擬人化をしない点がありがたい。もちろん擬人化モノであることは間違いないが、野生の習性をないがしろにするようなキャラクター設定はない。
彼らうさぎの世界はあくまで野生の習性に基づいていて、弱肉強食はもちろん、縄張り争いによるうさぎ同士の血みどろの闘いが徹底して描かれる。人間に駆逐されたり、罠にはまったり、うさぎたちを取り巻く環境はシビアである。そうしたリアリティのある自然や野生を描きつつ、新天地を求める勇気や、危機を乗り越える機転など、冒険譚としてエンタメに仕上げている。

後半は下巻に相当する“将軍”との闘い。これが中々面白いんだけど、彼だけは擬人化が行き過ぎて微妙なところ。インパクトのある素敵なキャラクターではあるものの…うーん…“将軍”の独裁、委員会体制による恐怖政治、密告、拷問、見せしめの制裁…一体どんな社会を擬人化しようとしたのだろうか…
まぁ結局恐怖政治はそこまで重要な意味はなくて、要はオスばかりの開拓者が、近くの集落からメスを獲得するというオチになるだけなんですが。そう考えれば単に縄張り争いというところです。

擬人化について文句を言うなら、“将軍”は許容範囲内ですが、うさぎたちの世界に神様というか伝説の英雄のような存在がいることの方がモヤっとします…歳をとって“お迎え”が来る描写もややどうかと思う。
うさぎは縄張り意識が高くて、ボスうさぎがいるのも普通だし、極めて攻撃的なので、“将軍”は実は悪くない擬人化です。

ヌルい擬人化で誤魔化すファンタジーより、うさぎの生態に即した今作はそれだけで価値がある。トラウマ製造機である事も込みでもう少し評価されてもいいと思う。
ちなみに日本語吹替もあり。オススメ。
青二歳

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